月しか知らない二人の秘密



半平太さんの後ろをついて歩く。
少しずつ季節は冬に向かっていて、空気はキンと冷えてきていた。
空が澄んでいて星も月も綺麗に見えている。

上を見て立ち尽くしていたら、半平太さんが足を止めて振り向いた。

「どうしたの?紘」

「半平太さん、空が綺麗ですよ」

「ああ本当だ、星も月も綺麗に見えているね」

私が止まったせいで開いた距離を半平太さんが戻ってきて距離を詰める。

「でも、早く帰らないと紘の体が冷えてしまう」

「わかってるんですけど…もう少しだけ」

「まったく…仕方ない子だね」

やれやれと言った感じで半平太さんが私の手を取った。

「あ…」

「手だけでも、冷えないようにしておかないと」

「はい…」

「君はすぐに照れてしまうんだね」

くすっと楽しそうに半平太さんが笑う。上を向くとちゅっと鼻先に唇が触れた。

「は、半平太さん!」

「鼻が冷えていそうだったから。やっぱり冷たかったよ」

そういって繋いでない片手で頬に触れる。顎にかけられた手の親指が唇に触れた。

「ここも、冷えていそうだね」

「えっ…」

声を上げる暇も殆どないまま唇に柔らかいものが触れた。
目を閉じた半平太さんの背中越しに真ん丸に輝く月が見えた。

二人の初めてのキスは、柔らかく光る月だけが見守っていた。








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