01.二人の向こう遥か水平線に

 真琴は奇跡だと思った。

 顔を上げたら、見慣れた体つきの男が波打ち際に立っていた。それで腰を浮かせて名前を呼んだら、男は振り返って眼を丸くした。俯き気味に軽く頭を振りつつ口端を上げ、そのあとで、前髪を払うように顔を上げると、唇が告げた。

「――――」

 けれど言葉が分からなかった。静かに距離を縮めながら、互いに言葉が通じないのだと理解した。
 この国の言葉と引き換えに代償を払い奇跡が起こったのならば、再び出逢えたのだから、恨みはしない。しないけれど、残酷なことをしてくれる。再会の喜びが複雑なのが切なかった。

 真琴はリヴァイの瞳を見つめ、泣きそうな顔をした。リヴァイも眉尻を下げて、少し悲しんでみせた。
 打ち寄せる波の音をどれくらい聞いたろう。

 リヴァイはおもむろに真琴の左手を引き寄せた。手のひらを見て、薬指に飾りげのない指輪を嵌めているのに気づいた。そこを愛おしそうに撫でたあと、指で文字を書いた。
 手のひらを節だった指先が滑るのを、肌で、瞳で追って、真琴は双眸を見開いた。

 分かる、分かる、と真琴は泣きながら頷いた。そんな真琴を見て、リヴァイは優しい眼差しで微笑した。
 ――愛している。

 二人の向こう、遥か水平線に、星が沈んでいった。消えることを知らないように、いくつも、いくつも――。

(了)

あとがき


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mokuji
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