雪解け(過去・番外・後日談等) | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 取るに足らない話


護廷十三隊、十番隊第五席、支倉。
入隊した時期や、年頃は――有名なところで言うと檜佐木副隊長と同じくらいだろうか。
所属部隊は三席の部隊で、数年続けて副部隊長を務めている。

どうやら戦闘において、俺は三席との相性が良いらしく、三席と二人組で戦うことが多い。
他隊と合同で行う任務なんかも、三席の要望で俺も同行することが多い。
白打と歩法を組み合わせて戦うことが多い三席には、遠距離に有利な能力の斬魄刀と、鬼道がそこそこ得意な俺のような席官が合っているらしい。
最近では三席は抜刀することが増えた為、その配置で戦うことばかりではないけれど。
俺なんかがいなくとも三席は一人で充分だと思うが、こんな俺でも一応副部隊長なわけで、あまりさぼってばかりはいられないというわけだ。

俺は、笹のように三席を命に代えてもお護りする!なんて気持ちは毛頭なく、三席のように部下の命は私が護りますなんて気持ちも勿論ない。
自分の命が何より一番大切だと思うから。
この性格だから斬魄刀が遠距離に有利な能力だったのだろうし、遠距離で戦う為の鬼道の技術を磨いたのは、自分が死にたくないから。

俺は冷めた性分で、結構飽きっぽい。
冷めた性分と思いきや、胸の内には情熱を秘めている――なんて日番谷隊長のような人物ではないし、飽きっぽく奔放だと思いきや、ここぞという時には頼りになる――なんて松本副隊長のような人物でもない。
俺は昔から冷めていて、飽きっぽく、努力は嫌いだけど何でもそれなりにそこそこ出来てしまう、そんな奴。
どのクラスや職場にも、一人はいそうな奴だ。

死神になったのは、安定した生活を得る為。
結構色々な隊を転々として、十番隊に異隊したのは……いつだったかな。
笹よりは長く、副隊長よりは短い。
上官に勧められるままに昇進試験を受け今の席次に就いてはいるが、これ以上昇進試験を受ける気はない。
三席を見ているとすごく大変そうだし、かと言って末席官だと動き辛いこともあるし、今の席次がそこそこ気に入っていたりする。
ああ、でももう少し下の席次、二桁の方が良かったかな…。
上位席官は書類仕事がえげつないから。

上位席官を務めている死神は大抵、目指す人や目標、護りたいものなんかがあったりする。
でも、護りたいものも、目標も、目指す人も、敬愛する人も、俺には何もない。
それで良いと思っているし、これからも多分そうだ。
笹は「三席は僕を変えてくれました!」なんて鼻息荒く言っているけど、生憎俺はそんなことは全くなくて。
三席はすごい方だし尊敬出来る上官だが、好意なんてものはない。
どちらかと言えば、雛森副隊長みたいな女性が好みだったりする。
少し、三席と自分がどこか似ている気がして、だから、もしかすると軽い同族嫌悪というやつなのかもしれない。

兎に角、特に目標もなく、何となく、安定した生活を求めて入隊して早云十年。
色々な隊を転々とした為、それぞれの隊についても広く浅く知っている。
四、十一、十二番隊は勿論なし、他にもまだ異隊したことのない隊は数隊ある。
此処十番隊は結構な人気があって、日番谷隊長が隊長に就任されてからは、更に人気が高まりつつある。
隊長と副隊長コンビの漫才のような掛け合いは勿論のこと、三席の言葉に狼狽える副隊長の少し笑えるやりとり、そして隊長と三席の落ち着きと息の合ったやりとりも有名だ。

色々な隊を転々とした俺自身は、各隊のことを知っていて、覚えているが、隊士達、上官や部下は、俺のことをあまり覚えていない。
人間というのは(魂魄だが)、人より特に秀でた者、又は人より特に劣っている者や、容姿や性格に特徴がある者はよく覚えているものだが、それなりに出来てそれなりに普通の容姿で当たり障りのない性格をしている者は、特に覚えていないものだ。
俺は勿論後者であり、比較的影の薄い存在である。

そんな俺を、三席は随分信頼して下さっていて、何というか、少し過剰評価しているような気がする。
それとなくそう言ってみれば、三席は笑って「私も、よくそう思うんです」と言ったのだった。
三席も、自分が周囲に過大評価されていると思っているのだろうか?
いや、三席は正当で当然の評価だと思うんだが……。
俺が言うのもなんだが、三席は何を考えているのかよく分らない方で、時々対応に困る。
いつも笑っていて、滅多にと言うか、殆ど表情を変えないものだから、人によっては人当たりの良い人なんて表現をするが、俺にとってはそうではなくて、最初は少し苦手な部類の上官だった。
まあ今では随分慣れたものだが。
三席は、虚討伐任務や捕獲任務等の際もいつも通りで、全く緊張感がない。
これから戦地に赴くとはとても思えないような雰囲気。
でも、笹や他の二人は結構緊張する性格だから、三席のそれが丁度良い具合に緊張を和らげているのかもしれない。
あの三席が何を考えているのか分かる人がいるとしたら、それはきっと隊長だけではないかと思う。

実はあの猫の一件で、隊舎裏で三席と猫の密会を追い詰めた時、隊長が三席の下の名前を呟くのを聞いた。
誰も何も言わなかったけれど、ひょっとしたら副隊長も笹も聞いていたかもしれない。
いや、笹は色々とおかしくなっていたから聞いていないか。
三席が誰かと会っているかもしれないなんて、正直俺はあまり興味がなかったが、副隊長が随分熱心だった為に調査を引き受けた。
隊長と三席が良い仲だというのは以前から噂になっていたが、予想した通り二人は以前と何も変化がないように見えるものだから、周囲は噂を信じ切っていないようだった。
でも俺は、少し前からそんな気がしていた。
人と当たり障りなく接するには、相手や周囲をよく観察することが大切だ。
今までそうしてきたからだろうか、三席が苦しんでいるのを、変わっていったのを、何となく感じていたのだ。

 / 戻る /