雪解け(過去・番外・後日談等) | ナノ
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 少しだけ切ない甘さを飲みほして


「っ、はぁ、はぁっ……」

肩で息をして、玉のような汗をかいていると言うのに、彼女は笑みを浮かべていた。
いつだって息一つ乱さない彼女が、この定期計測実験の時だけは、心身ともに疲弊している。
疲弊を通り越して、何度か意識を失うこともある。
恐らく普段の彼女を知る者からしたら、想像もつかない姿だろう。

「もう一体解放するぞ」

釦を押すと、白いものが彼女に向かって弾丸のように飛んでいく。
それを合図に、散らばっていた白いそれも同時に彼女に飛んでいった。

「良い動きをするじゃないか」

ふん、と局長が満足そうに鼻で笑う。
局長が言っているのは、彼女に襲いかかっている白いもの――彼女の義骸のことだ。
順番に解放し、今や五体の義骸と本体の彼女が戦っている。
義魂丸には彼女の能力、仕様が組み込まれていて、測定の度に更新している。
彼女と彼女の義骸が戦っているのだから、俺の肉眼では追えない程の速さだ。

彼女の霊力はまだ成長過程であり、それは身体も同じく、未だに止まってはいない。
定期的に行うこの計測実験を、最近の彼女は喜んで受けているように見える。
戦っているその表情は、以前よりもずっと生き生きとしているのだ。
義骸を斬り捨てるその表情は、いつもの柔らかなそれではない。
戦いに愉悦を感じ、それが表情にも表れている。
そして記録を更新すると、嬉しそうに笑う。
強くなりたいのだろう。
あの人の為に。

「Bの数値はどうかネ」
「やはり他より劣ります。改良する必要がありますね」

言っている側から、彼女が義骸を斬り捨てた。
彼女の全てを測定する為に局長が製作した結界は、彼女の霊圧を吸収し、電力に変換すると言うもので、彼女も何の躊躇もなく霊圧を解放する。

「Bがやられました。Fを解放しますか」
「そうだネ」
「周、次を解放するぞ」

彼女の攻撃により戦闘不能になった義骸の代わりに、次の義骸を解放する。
一段と速く飛んで行ったそれに、彼女の霊圧の数値が上昇した。

斬魄刀の能力は義骸には備わっておらず、施設を水浸しにされては困る為、彼女自身の斬魄刀の解放はなしだが、それ以外は何をやっても良い。
義魂丸は彼女にのみ攻撃するよう設定されていて、殺すつもりで襲いかかる。
最初こそ致命傷は避けるよう設定されていたが、彼女自身が殺すつもりでこられないと、こちらも本気で向かえないと訳の分からないことを言い始めたのだ。

義骸と一晩中戦い続けると言う単純な方法だか、定期的に行なっている重要な計測、実験。
彼女の記録も取れる上に、こちらの製作したものの記録も取れ、一石二鳥だ。
更にこの膨大な彼女の霊力は、電気のない流魂街の施設の発電源でもある。

「ふむ。次回はあれを試すかネ。前回のを改造しても良いネ」

彼女は予想外のことを起こす為、局長もそれなりに期待しているようで、特殊な義骸、義魂丸は殆どが彼女との実験に使われる。

「…そろそろか」

前回の数値を僅かに超えた辺りで、彼女の真白い肌が淡い赤色に発光し始める。
霊圧の数値がどんどん上がり、結界がじじっと音を立てた。

「一体解放するぞ」

釦を押して、更にもう一体解放すれば、彼女が掌から膨大な霊圧を放出する。

「ちっ…簡単に壊しやがって」

時間をかけて製作したと言うのに、あっという間に二体が使い物にならなくなった。
また二体解放すると、彼女の肌は益々赤く染まり、水蒸気のように白い煙が立ち始める。
霊圧の数値は上昇が止まらない。
開始してから、数値が下がることはない。
その時、ぼっ、と彼女の死覇装が発火した。
彼女の霊圧が、あっという間に死覇装を焼き尽くす。
その間、彼女はそんなことはお構いなしに義骸への攻撃を止めない。

「周、着ろ」

結界の中に彼女の死覇装を放り投げると、彼女は縛道で義骸を縛る。
そして素早く着ると、縛道を解いてすぐに戦闘を開始する。
俺が言わなければ、彼女は裸のまま戦い続けるだろう。
局長もそんなことは気にしない。
自分が常識人だとは言わないが、この二人よりはいくらかまともではあると思う。

「おい周、EとFはすぐに壊すんじゃねぇぞ」

あまりに短い時間で壊されては、記録が取れない。

「どれがどれだか分かりません」
「ちっ…」

こうしている間にも、彼女の死覇装はまた燃え始めている。
これは毎回のことで、計測実験の間に何度も着直させる。
勿論、全部俺が言うからだ。
あまり止めると局長の機嫌が悪くなる為、彼女に燃やすなと言っても、「好きで燃やしているわけではありませんし、燃えても別に構いません。どうぞそのまま続けてください」と訳の分からないことを言う。
だからこいつは嫌いなんだ。

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