雪解け(過去・番外・後日談等) | ナノ
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 少しだけ切ない甘さを飲みほして(02)


「阿近、同時にHからK、四体解放したまえ」
「四体ですか?」

一気に四体も解放したことはない。
それに、四体解放すると言うことは、合計十体になる。
あいつは捌き切れるのか?

「残りは試作品ですよ。それに、結界が壊れるかもしれません」
「また作れば良い話だ。そんなことより今はあの娘の反応と数値が見たいネ。娘に一々教えるんじゃないヨ」

また局長の癖が出始めた。
まあ、どうにかなるだろう…多分。
それに俺自身も、好奇心に逆らえない。

「…分かりました」

言われた通り、彼女には教えず、一気に四体を解放する。
彼女がそれを感知した瞬間、霊圧の数値が跳ね上がり、結界から火花が噴き出た。
彼女の肌は、今や燃えるように発光している。
溢れ出す霊圧で、風もないのに結われた髪が舞い上がる。
彼女は、十体の義骸を相手にどう戦うのか。

「っ……」

次々に攻撃を仕掛ける自身の義骸に、彼女は、珍しく斬魄刀を大きく振り被る。
そして、一気に振った。
瞬間、爆発し、結界が弾け飛んだ。

「くそっ…あの馬鹿!…記録は無事だろうな」

当然俺も吹き飛ばされて、ぶつけた腰がじんじん痛む。
煙の中、慌てて確認すると、記録はしっかり取れ、破損もない。

「ふむ、面白い。これはまだ成長するネ。飽きない娘だヨ」

何故か全く被害を受けてないと思われる局長は、にやりと笑うと、実験室を後にする。
後始末は勿論、毎回俺の仕事だ。

「全部壊しやがって」

勿論結界は壊れ、溜まっていた電力も放電してしまった。
十体の義骸は真っ二つのものもあれば、霊圧で燃えているものもあり、もう使い物にならない状態だった。
彼女はあの時、霊圧も一緒に放出したらしい。
普段は霊圧を昇圧剤にしている為大きく振りかぶる必要はないが、これだけの数を一気に叩く為に、振りかぶり更に威力を付けたようだ。

「周」

仰向けに寝転がる彼女は、肩で息をして、辛うじて意識を保っているような状態だった。
先程まで赤く発光していた肌は、褐色に変わっている。
勿論、死覇装はとっくに燃え尽きていた。

「手間ばかりかけさせやがって」

何で俺がこんなこと。
抱き起こして死覇装を着せ、腰紐を結ぶ前に怪我をしている箇所に軟膏を塗る。
同じ能力、仕様を持つ義骸相手に、流石に無傷とはいかない。

「あこん…どうでしたか…?」
「伸びてた。持続時間も、霊圧の最大数値もな」

答えると、彼女は嬉しそうに笑い、意識を飛ばした。

「お陰で、結界も義骸も全部ぶっ壊れたけどな」

嫌味も、もう彼女には聞こえていない。
一番酷く抉れている二の腕は、いくら俺の手製軟膏を塗ったとしても、治るまでに二、三日はかかるだろう。
身体の傷に軟膏を塗り終わり、腰紐を結ぶ。
顔を見れば、頬も数箇所切れている。
軟膏を手に取り、彼女の頬に塗り込む。
じゅっと音を立てて、傷がゆっくりと塞がっていく。

「これ以上強くなって、お前はどうしたいんだよ……」

彼女の答えなんて、分かっている。
分かっていても、俺は。
例えば彼女が並みの霊力しかなく、席官ですらなかったとしても。
それでも、きっと同じだ。
俺も、あの人も。
馬鹿みたいで、嫌になる。

「…くそっ」

分かってはいたものの、彼女を背負うとそれは一層膨らんで、俺の胸を掻きむしる。

「貴方が望めば、私は何だってするのに」

俺の望みを知った時、彼女は何と言うだろう。
どんな顔をするのか。
世界が引っくり返ったしても現実にならないことを想像して、自分で自分を傷付ける。

「全部お前の所為だ、周」

悪態を吐きながらも、俺の足はあの人のところを目指す。
彼女が望む所へ、望む人のところへ。
嫌いになることが出来たら、どれだけ楽だろうかと思う。
けれどそれも、世界が引っくり返ったしても現実になりはしないことだと、俺はよく分かっている。



少しだけ切ない甘さを飲みほして



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