雪解け(過去・番外・後日談等) | ナノ
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 白か黒か


「三席のお手を煩わせてしまい、大変申し訳ありません」
「そんなことはありません、顔を上げてください」

頭を下げる六席に、周は微笑み、書類を受け取る。

「この日、斑目三席はいらっしゃらなかったのですね」
「はい、非番だったようです。他に指揮を取れる席官がいなかった為に、綾瀬川五席が仕方なく指揮を取られたと仰っていました」
「綾瀬川五席ですか…」

周は少し考えるようにしたが、すぐに「分かりました」と頷いた。

「部隊の隊士達の見聞は、こちらで間違いありませんね」
「はい」
「では、私がお話してきます」
「ありがとうございます」

もう一度深く頭を下げると、六席は去って行った。
これは珍しいことではなく、時折あることだ。
虚討伐要請があり出撃した六席の部隊が、十一番隊の綾瀬川の部隊と共闘、その際十一番隊の隊士が建造物を破壊した。
戦闘が行われた流魂街は十番隊の管轄だったが、破壊したのは十一番隊の隊士だ。
当然十一番隊の隊士の出撃料から差し引かれ、報告書を上げる筈なのだが、相変わらず認めないのだそうだ。
六席が話しに行っても取り合って貰えないらしく、困り果て周に相談に来た。

十一番隊に一人で出向き必ず相手に非を認めさせて帰って来る周だが、相手が綾瀬川となると少し違うのだろうかと、先程の反応を見て日番谷は思う。
少なくとも、十一番隊では一番弁が立つ人物だ。
乱菊によれば、綾瀬川は周をあまり好ましく思っていないらしく、理由は自分の美しさに無自覚だからだそうだ。

「午後から十一番隊に行って来ます」
「ああ。気を付けろよ」
「はい」

寧ろ気を付けるのは十一番隊の隊士の方だと言うことは日番谷も分かっているが、念の為にそう声を掛ける。

「乱菊さんはお待ちでしょうか」
「自分で言い出しておいて逃亡するとは、全くふざけてやがる」

今日は乱菊が食堂で食べようと提案した為、日番谷と周は隊舎に隣接されている食堂に向かっていた。
誰でも利用することは出来るものの、大抵の隊士は自隊の隊舎に隣接されている食堂を使う。
作り手によって味が変わる為好みもあるが、日番谷、乱菊、周は自隊舎の隣の食堂を時折利用していた。
日番谷と周が二人で利用することはまずない。
今日は乱菊が昼前に逃亡した為、食堂で落ち合うことになっていた。

窓際の席に腰を据えて、何を注文するかと考えていると、周が何かに気付いたように窓の外を見ている。
日番谷がその視線を追うと、窓の外に綾瀬川と斑目の姿が見えた。

「先に済ませて来ます。隊長はお先に召し上がってください」

そう言うと、周は席を立ち食堂を出て行った。
残された日番谷は、頬杖を突きながら、周が綾瀬川を呼び止めているのを見ていた。
先に済ませるとは言っても、六席から預かった隊士達の見聞録もなければ、外で手短に終わらせられるのだろうか。
見聞録は先程の短い間に暗記していたとしても、綾瀬川が素直に認めるとは思えなかった。

実のところ、周が十一番隊の隊士とどのように話し合いをしているのかは興味があった。
周はいつも一人で出向いている為、どう話をつけているのか日番谷は見たことがなかったのだ。
しかし見ていると案の定、周の言葉に綾瀬川がそっぽを向いて「僕は見ていないよ」、「何故現場にいなかった君が分かるんだい?」とでも言っている雰囲気だった。
徐に、周が綾瀬川にすっと歩み寄り、耳元に唇を寄せる。
窓の向こうにいる斑目と同じく、日番谷はぎょっとした。

「っ…!」

その光景に、頭に血が上るのを感じたが、此処が食堂だと言うことを思い出し、日番谷は冷静を保つよう努める。
そして綾瀬川の耳に触れそうな周の唇が、何かを囁くと、途端に綾瀬川の顔色が変わった。
ばっ!と勢い良く周を見ると、恨みがましく睨み付け、渋々と言った風に小さく頷いた。
周はにっこり笑うと踵を返し、食堂に戻って来たのだった。

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