流魂街の手付かずの山奥には、薬草が自生していることが多い。
この東流魂街の四地区にも、珍しい薬草が自生しているらしく、副局長に頼まれてやって来た。
「此処ですか?」
但し一人ではなく、面倒な奴も一緒に。
「ああ」
一人で行こうとしたところ、局長に周と一緒に行くように言われたのだ。
局長に言われては従うしかない。
仕方なく、彼女を連れてやって来た。
この間の茸採取の時のように、面倒なことになるのはごめんだ。
技局を出る前に髪を結うように言った為、彼女は長い髪を一つに結っている。
これでまた植物に髪の毛が引っかかるようなことはないだろう。
さっさと採取して、さっさと帰ろう。
「手袋をしろ」
「はい」
薬草によっては皮膚がかぶれたりする種類もある。
薬草採取に手袋は必須だ。
「行くぞ」
「はい」
森の中に入ると、冷んやりとした空気に包まれる。
木々に陽が遮られ、丁度良い明るさだ。
茸が沢山生えていたこの間の森よりは明るく、湿度が低い。
視線を下に向け、まずは目当ての薬草を探す。
「……これと、これだ。若い芽は取るなよ」
生えていたそれを摘んで渡すと、彼女はじっと見つめて、
「二種類で良いのですか」
副局長が俺にいくつか指定をしていたことを、彼女は聞いていたのだろう。
「お前はそれだけを採取しろ。他は俺が採取する。あれもこれも見せて、間違えられたらたまったもんじゃねーからな」
似たような薬草も多い為、彼女には全く似ていない見た目の薬草を渡した。
「間違えません」
俺の言葉が気に食わなかったのか、言い返してくる彼女。
「うるせーな」
まったく面倒くさい。
「さっさと探すぞ」
それ以上は言い返すことをせず、彼女は薬草を探し始めた。
それを確認して、中腰になり地面を隅々まで探す。
夢中になって目当ての薬草を採取し、珍しい種類を見つけては持参した図鑑と照らし合わせて確認したりと、時間が経つのも忘れていた。
どれくらい経ったか、腰を上げると身体のあちこちがぼきぼきと嫌な音を立てる。
森の中だというのに、じっとりと汗が滲んだ額を袖で拭った。
「おい」
振り返ると、少し離れた所に彼女がしゃがみ込み薬草を籠の中に入れている。
立ち上がると、
「この辺りは殆ど取りました。このくらいでどうですか」
そう言って、薬草で一杯になった籠の中を見せる。
「ああ。じゃあこっちを手伝え」
彼女の傍にあった大木の横に籠を降ろすと、小走りで此方へ寄って来る。
「これとこれだ。手袋を外すなよ。こっちのは一緒に生えてる種類がかぶれるかもしれない」
「………」
「おい、聞いてんのか」
俺の持つ薬草を見たまま、返事をしない彼女に苛立つと、今度は俺をじっと見て、
「こっちの薬草はかぶれるかもしれない種類が一緒に生えているから、私にはあの二つを探させたのですね」
そう言って、笑う。
「…一々んなこと考えてねーよ」
どうしたらそんな解釈になるんだか、理解が出来ない。
唯、何かあってまた面倒なことになるのが嫌だっただけだ。
「良いから探せ。見つけたら俺の籠に入れろ」
「分かりました」
それからは、彼女と付かず離れずの距離で薬草採取をした。
再開すると、またしても時間を忘れて採取に勤しみ、それは彼女も同じのようで、一言も口を利くことなく森を進んで行く。
「阿近、そろそろ籠が一杯ですよ」
「あ?」
彼女に声をかけられて、我に返って籠を見ると、言われた通り一杯だった。
「それに、そろそろ帰った方が良いのでは?」
「浦原隊長が心配されます」と、来た道を振り返る。
「ああ」
帰る時間を考えると、確かにそろそろ森を出た方が良い。
「帰る前にあっちの方を見ておきたい」
まだ見ていない場所に、どんな薬草が生えているのかを確認しておきたかった。
把握しておけば、次に来た時に効率良く採取出来るだろう。
籠を置いて、木々が少なく、草が生い茂っている方へ足早に進み、生えている植物をざっと確認する。
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