雪解け(過去・番外・後日談等) | ナノ
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 君とぎくしゃくしたい


「ったく…何が良いって言うまで帰ってくるな、だよ」

ぶつぶつ文句を言いながら、自室の鍵を開ける。
彼女から突然部屋を借りたいと電話が来たのが約一ヶ月前。
良いと言うまで帰って来るなだの、三日後の非番に現世に行くから義骸を用意しろだのと言われ、相変わらずこっちのことはお構い無しで電話を切りやがった。
殆ど自分の研究室で生活しているようなものだが、時折着替えを取りに行ったり自室に帰ることもある。
結局丁度いくつか仕事が立て込んだこともあり、一ヶ月程自室に帰る暇はなかった。
研究室に缶詰めだった為、彼女が現世に何をしに行ったのかも知らない。
そして昨日、彼女から帰っても良いと電話があり、着替えを取りに帰って来たのだ。

扉を開けると、最後に見た自室と変わったところはなかったが、部屋中掃除がしてあった。
ヤニがついていた換気扇や、埃が被っていた台所も綺麗になっている。
しかし相変わらず彼女の霊圧の名残りなんてものはなく、掃除されていなければ彼女がこの部屋に入ったかどうかも分からないだろう。

「あ?」

部屋中を見回して、冷蔵庫に紙が貼り付けてあるのを見つける。
近付いて見れば彼女の字で【冷蔵庫を開けてください】と書いてある。
不審に思いながらも冷蔵庫を開けると、空っぽの筈の庫内に見知らぬ小箱が置いてあった。

「何だ…?」

小箱の上に折り畳まれた紙が置いてあり、冷蔵庫から出すと、取り敢えず小箱の蓋を開けてみる。

「…チョコレート、か?」

丸いチョコレートが四つ、小箱に並んで入っていた。
折り畳まれた紙を開け文字を読んで、今日が現世のイベントであるバレンタインデーだと言うことを思い出す。
そう言うことか。

【阿近 いつもありがとう 周】

チョコレートを一つ摘み、口へ放り込む。

「……へえ」

甘さ控えめで、こく深く、少しほろ苦く、好きな味だ。
これは毎年部屋を貸すことになりそうだと、二つ目を指で摘みながら思ったのだった。



君とぎくしゃくしたい



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