雪解け(過去・番外・後日談等) | ナノ
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 傷跡に愛を塗り込む


驚いたのは、霊圧制御装置を付けていたことではない。
可能性はあって、もしかしたら――とは思っていた。
一隊長が嘆願して、彼女を瀞霊廷に住まわすことを四十六室が簡単に許すわけはない。
驚いたのは、昔装置を付けていたことでも、今付けていることでもない。
驚いたのは、彼女の思想だ。

彼女は、装置を付けられたことを感謝していた。
俺を心配させまいと彼女が言葉を発する度、胸が抉るように痛んだ。
何の恨みもない、あるわけがない。
寧ろ感謝してもしきれない――そう思っている。
それはつまり、装置の苦しみよりも尚、更木と言う場所での暮らしが酷いものだったと言うことだ。
あの苦しみに比べたらそんなことは何でもない、そう思っている。
その異常な思想に、吐き気すら覚えた。

彼女が瀞霊廷に連れて来られたのは、草鹿よりも少し小さい頃だったと言う。
人間で言えば四歳程度。
そんな幼い彼女の腹を開き、霊圧制御装置を取り付ける。
更木の眼帯と違う取り外しの出来ない、枷と言うより最早檻のようなそれを付けながら、霊力の制御を会得させる。
並の魂魄ならば死んでもおかしくない、否、殺すつもりだったのかもしれない。
まるで罪人の扱いだ。
周囲と何より彼女の血の滲むような努力で、良い方向に転んだだけ。
前隊長はどのような気持ちだったのか。

しかし前隊長がどう思おうが、四十六室の決定は絶対で、覆せるものではない。
更に言えば、瀞霊廷の守護を担う隊の長となれば、何の保険もなく彼女のような魂魄を瀞霊廷内に招き入れることは出来ないだろう。
幼いことも、同情も、何の関係もない。
それは感情論で、隊長には求められないものだ。

更木で苦しみ早死にするくらいならば、装置を付けて瀞霊廷で暮らした方が良かったのだろう。
分かっている。
そんなことは分かっている。
けれど、幼い彼女が腹を開き装置を付けられ、五十年間も苦しんだのだと思うと、腹の底が煮えたぎるような感覚に襲われる。
もう過ぎたこと、自身がその場にいたとしてもどうすることも出来ないこと。
その事実が更に胸を抉る。

そんな装置の性能試験の為に、再び彼女の身体に埋め込む。
許せるはずがなかった。
青白い顔で冷や汗をかき、息も絶え絶えに笑う彼女を、放っておけるわけがなかった。
けれど、涅が自分を生かす為に装置をつけろと言うのなら、彼女は喜んで従うだろう。
例え開腹が必要になったとしても。
一生付けることになったとしても。
それを喜んで受け入れるのが彼女で、きっとそれは変わらない。
これまでも、これから先も、彼女の思想が変わることはないだろう。
何より許せないのは、何も出来ない自分自身だ。

「お前を苦しませるものは、俺が許さねぇ」

過去の苦しみも、痛みも、悲しみも、不幸も。
全てを掬い上げ、これからの何もかもから彼女を護ることが出来たら。



傷跡に愛を塗り込む



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