雪解け(過去・番外・後日談等) | ナノ
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 すべて熱は薄氷の下


「っ!」

突然のことに、彼女は目を見開いた。
が、ゆっくりと瞼を閉じる。
けれど俺は、ゆっくり、優しくする余裕なんてなくて。
捩じ込むように舌を入れ、びくりと揺れた彼女の肩を抱く。

「……ん、」

角度を変えて、触れては離れ、絡めて、吸って、なぞって、噛んで。
歯がかち合う程に押し付けて、酸素を求めようとする彼女を、逃すまいと抱く。

「ん、はっ…」

溢れる吐息とその声が、残る理性を絡め取っていく。
されるがまま、口内を犯されて、彼女が隊首羽織をぎゅうと握る。

「周っ…」

名前を呼べば、襟元を握る手に力がこもる。

「た、たいちょ、…、ん、」

隙間もないくらいに引き寄せる。
境界線が分からなくなるくらいに、溶けてしまえば良い。

「ふ、…ん、っ」

膝から崩れそうになる彼女を支えるも、体勢を崩し一緒に崩れる。

「あっ!んぅ、」

離れた唇を追いかけて、また塞げば、彼女は堪らず声を漏らす。
苦しげに眉を寄せて、羽織にしがみ付く。
漏れる水音が、彼女の吐息が、声が、俺をおかしくさせる。
彼女はどこまで自身を煽れば気が済むのだろうか。

「…んぅっ、…んん」

苦しいと、羽織を握った手を押す彼女。
その手を掴んで壁に押し付け、貪り続ける。
一瞬たりとも離したくはなくて、足りなくて、もっともっとと求め続ける。

「周、」

合間に呼べば、「ん、」と返事が返ってくる。
こく、と喉が鳴った。

「周、…周っ」

愛おしさで、おかしくなりそうだ。

「っ!」

彼女が、掴まれていない方の手を床に着いて耐えていたが、体勢を崩し、二人で床に倒れ込む。

「はぁ、はぁ、はぁっ……」

肩で息をする彼女と、久々に目が合う。
潤んだ葡萄色が、俺を縋るように見る。
どちらのものとも分からない唾液で、彼女の唇がいやらしく光った。
垂れた自身の前髪が、彼女の額をくすぐる。
その額には薄ら汗が滲んでいた。

「はぁ、まだだ…っ」

足りない。
もっと、もっと。

「どれだけ我慢したと思ってるんだ」

彼女が息を呑む。
鼻先がつん、と当たって、彼女がぴくりと動く。
視界いっぱいに葡萄色が広がる。

「覚えとけって、言ったろ」

彼女の白銀の睫毛が震えた。

「周」

呼べば、彼女の唇が薄く開く。
誘われるようにまた口付けると、彼女の手が頭に伸びて、髪を梳くように指を差し込む。

「っ、わたし、も…」

ぎゅっと、引き寄せられる。

「たい、ちょ、」
「ん」

返事をすると、彼女の口角が上がるのが分かった。

「ずっと…我慢、していました」

その言葉で、何もかもが溶けていく。



すべて熱は薄氷の下



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