雪解け(主人公×他キャラクター) | ナノ
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 ささくれを舐める


技術開発局――通称技局は、他隊の連中は近寄りたがらない、気味の悪い場所だ。
奇人変人が集まる此処には、三度の飯より研究や実験が好きで、寝る暇も惜しんでそれ等をしたい連中ばかりがいる。
死んだら好きなことが出来なくなる為に、生きて好きなことをする為に、食事をして睡眠をとっているような連中。
好きなことが出来て、その上給料ももらえて、こんな良いことはない。

しかも、技局ってのは非常に居心地が良い。
干からびてしまいそうな暑い日も、凍えてしまいそうな寒い日も、局内は常にひんやりとしていて薄暗く、湿度も気温も、全て管理されている。
夏の暑さも、冬の寒さも、雨も風も、雪も雹も、此処に居れば関係ない。
今日のように死ぬ程暑い夏も、技局に居れば汗一つかくことはない。
局員には一応寮の自室が与えられているが、大抵の局員は研究室で寝泊まりし、何か事情がない限り、自室に帰ることをしない。
だってそうだろう、此処程居心地の良い場所なんてない。
勿論、外の気候云々に関わらず、自ら技局の外に出ようとする局員なんていない。

つまり何が言いたいかと言うと、技局の局員達は、滅多なことが何限り外へは出ない、と言うことだ。
勿論俺もその一人で、滅多に技局から出ることなんてしなかった。
唯、あいつのこととなると別だ。
彼女、周と付き合い始めてからは、彼女の自室に行ったり、彼女が俺の自室に来たり、時折外に食事をしに行くこともある。
研究室で良いと言う俺を、彼女は「ずっと此処にいたら不健康になりますよ」と言って外へ連れ出す。
いや、外で外気に触れた方がよっぽど不健康になると思うんだけどな。

「暑っつ……」

夏は嫌いだ。
暑くて、煩くて、体力は落ちる、思考は鈍る、良いことなんて一つもない。
こんな熱帯夜に、何故俺が自室で寝ているのかと言うと、今日は彼女が俺の自室に来る予定だったからだ。
彼女が今日は定時で上がれるから、俺の部屋に行くと昨晩の電話で言ったのだ。
夕食の買い物をしてから行くと彼女が言ったので、頷いて電話を切った。
外で食べるより、そりゃ彼女の作ったものの方が美味い。
ここのところ互いに忙しくしていた為、会うのも一月ぶりだ。
そうなればすっかり気分が良くなり、さっさと仕事を片付け定時に上がって自室に帰って来た。
しかし、玄関で草履を脱いだところで彼女から電話があった。
虚討伐の応援で現世に行くとのことで、それも虚の数が多いらしく、何時に帰還出来るか分からないときた。
つまり、今日は中止と言うことだ。
こう言うことは珍しいことじゃない。
俺が急遽残業になることだってあるし、何週間、一月以上研究室に缶詰になることだってある。
俺達は死神なんだ、当然のことだ。

また暑い外に出て研究室に戻るのが面倒で、今日は自室で眠ることにした。
定時に上がる為に昼飯を抜いたから空腹だ。
しかし自室の冷蔵庫には何もない。
買いに行くのも何をするのも、兎に角暑い外に出たくはない。
俺は仕方なく、空腹のまま風呂に入り、早々床に就いた。

自室で眠るのは久しぶりだ。
前回は彼女の自室に泊まった。
会うのは大抵彼女の自室だ。
同じ三席と言う席次だが、引っ越すのが面倒で最初に充てがわれた部屋をそのまま使っている為、俺の部屋は狭い。
彼女の部屋の方が広いし、俺の自室には何もない。
寝るための布団、その他必要最低限の生活用品だけだ。
唯、時折俺の自室で会うのも悪くない。
二人で入るには狭い風呂で、汗だくになりながら彼女を抱くのは、俺の研究室でのそれより好きだったりする。
汗をかくのは嫌いだが、これだけは別だ。

早々床に就いた筈が、眠れずに、何度目かになる寝返りを打つ。
額の汗を拭い、緩んでいる浴衣の衿元を更に緩める。
開けた窓からは虫の音だけが聞こえていて、他は何も聞こえない。
局員が自室に帰ることは殆どない為、寮は殆ど空室状態だ。
彼女は無事に帰還しただろうか。
連絡が来てから、三時間以上が経っている。
その時、近付く霊圧を感じて瞼を上げる。
――彼女だ。
いつも滅多に感じない、霊圧の僅かな乱れを感じて、寝たふりをする。
体調が悪いとか、怪我をしているとか、そんなものではない。
珍しく、いらいらしているような乱れ方だ。
それでも、彼女の霊圧のこんな僅かな乱れを感じ取れるのは俺くらいなもので、それくらい、彼女の霊圧はいつだって波一つない湖のように静かで澄んでいる。

かちゃり、小さく鍵の開く音が聞こえて、静かに扉を開ける音、次に気付いた時には、彼女が布団の傍まで来て座っていた。
もう少し足音をさせろっつぅんだ。
寝たふりをしながら彼女の気配に集中するが、鋭い彼女にはばれるかもしれない。
彼女が連絡もなしに訪ねて来ることはよくあることだが、こんな時間に来るのは初めてのことだった。

そ、と彼女の指先が俺の肩に触れた。
少し肩を撫でた後、その手が俺の頬を滑る。
いつもより手が熱い。
彼女の小さな吐息で、それが夏の暑さの所為じゃなく、酒の所為だと分かる。
頬から瞼を、角にまで指先で触れる。
また頬に戻ったかと思うと、音もなくそっと、彼女の唇が俺の頬に押し付けられて、次は唇に優しく触れた。
頬を包んでいた手が、首筋に、肌蹴た胸元に滑って行く。
ぞくりとして、下半身が疼く。
手を追うように、今度は唇が首筋を、胸元を滑っていく。
ちゅ、と小さな音を立てて俺の胸元に口付けて、

「阿近……」

掠れた声で俺の名を呟いて、彼女の手は離れていった。

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