雪解け(おうち掌編) | ナノ
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美味しい君



買い物に行ったいつもの八百屋で勧められて購入した苺は、所謂一般的なものより少し大きく、歪な形をしていた。
風呂から上がり髪の毛を拭きながら居間まで来ると、日番谷はすぐに机の上の苺に気が付いたようだ。

「不思議な形だな」
「形は少し歪ですけれど、しっかり熟してから収穫したものなのでとても甘いそうです」

形が歪なものは、一番甘い先端が広いことが多い。
加えてへたが上向きに反るまで熟してから収穫している為、店頭に並んでいる形の整ったものよりずっと甘いのだ。

「ん、…美味い」
「それは良かったです」

周は明日の食事の下拵えをしながら、日番谷の表情を想像して頬を緩める。

「ほら」

近くで聞こえた声に周が振り向くと、すぐ斜め後ろに日番谷がいて、目の前に苺が差し出されていた。
真っ赤な艶々な苺が、灯りに反射して光っている。
洗った時についた雫が、果実の瑞々しさをより際立たせて見える。

「お前も食ってみろ」

そう言うけれど、今は手が汚れていて受け取ることは出来ない。
しかし苺の差し出し方は、今すぐ食べろと言っているような勢いと角度だ。

「え、と……」

手を洗いますと周が言おうとすると、徐に日番谷の口が開く。

「あ」

まるで釣られるように、周の口も開く。
思考より先に身体が動いた反射だ。
すると、日番谷の瞳が柔らかく細められて、思わず見惚れる。

「っん、」

口の中に苺が入ってきて、思わず小さく声が漏れた。
少し押し込まれるように入れられて、大き過ぎるのではと周は少し焦る。
しかし日番谷の指が唇に触れて、それどころではなくなり、今の状況を思い出し、途端に顔が熱くなる。
手が離れて行き、視線を上げると、日番谷が嬉しそうに笑っていた。
咀嚼すると、果汁が広がって、苺の甘さで一杯になる。
小ぶりな物を入れてくれたらしく、口一杯になることはなく数回の咀嚼で飲み込むことが出来た。

「…美味しい、です」
「だろ?」

日番谷が少し得意そうに言うから、それが何だか可愛くて周も笑う。
苺程ではないだろうけれど、きっと頬が赤い。
今度は日番谷に同じことをしたら、どんな顔をするだろう。
そう考えてまた笑った。


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