雨降り
死覇装についた雨粒を手で払い、空を見れば、隊舎を出て来た時よりも雨足が強くなっていた。
まだ昼過ぎだと言うのに夕方のような暗さだ。
非番の日番谷に合わせて、周も半休を取っていた。
お昼を一緒に食べようと話していたのに、乱菊の書類を確認するのに時間が掛かり、少し遅くなってしまった。
日番谷はどんなに空腹でも先に食事を取ることはないだろうから、早く作ってあげなければとまるで保護者のようなことを考えながら家路を急いだのだった。
「ただいま帰りました」
「おかえり」
まるで待ち侘びていたように日番谷が早く出て来たので、思わず頬が緩んでしまう。
しかし周を見るなり「待ってろ」と言い残し、日番谷が廊下を引き返す。
そしてすぐに戻ってくると、その手には手拭いが握られていた。
「ほら」
「すみません、ありがとうございます」
手拭いを受け取り、死覇装を軽く拭いてから草履の紐を解く。
「急に降って来たな」
「はい、午前中は良い天気だったのですが」
雨が降り始めるのは夕方からかと思っていたから、傘は持って出なかった。
それに少しの雨くらいならば、瞬歩を使えば大して濡れずに済む。
昨日、今日の分の食材を買っておいて良かった。
「昼食、すぐにお作りしますね」
雨が降り始めたことで気温が下がり、少し肌寒さを感じる。
取り敢えずお茶を淹れようと台所へ向かおうとすれば、袖を掴まれた。
振り返ると、日番谷が袖の裾を掴んでいて、どこか不満げな表情をしている。
「すみません、お腹空かれましたか」
「は?」
的外れなことを言ったのだろうか、日番谷は呆れたような顔をする。
「そんなことはどうだって良い」
そう言うと、周の手から手拭いを取り上げ、そのまま袖を引いて歩いて行く。
日番谷の行動の理由は分からないが、引かれるまま着いて行くと、居間に入り、「座れ」と短く言われる。
言われた通りに座ると、頭からふわりと手拭いをかけられた。
「風邪、引くだろ」
ぶっきらぼうな言い方に反して、ぽんぽんと優しく髪を押さえられ、日番谷の不満げな表情の理由を理解する。
そう言えば、食事のことばかり考えていた為に髪の毛を拭くのを忘れていたかもしれない。
「ありがとうございます」
雨が死覇装に染み込むように、温かさが胸に広がっていく。
日番谷の不器用な優しさは、いつも周の胸を一杯にする。
「あとは自分で拭きます」
いつまでも拭いてもらっているのが申し訳なくなり手拭いに触れるが、日番谷は手を止めない。
「あの、隊長…?」
「お前は、自分のことになると雑になるきらいがある」
言われて、少し考える。
「そうでしょうか…」
「そうだ」
だから、このまま拭いてくれるのだろう。
素直に任せることにして、目を閉じる。
雨音と、髪を押さえる手が心地良い。
自分のことを雑にしている自覚はないけれど、日番谷にこうしてもらえるのなら、そのままで良いのではないかと思う。
少し早く降り出した雨に感謝をして、微笑んだ。
まだ昼過ぎだと言うのに夕方のような暗さだ。
非番の日番谷に合わせて、周も半休を取っていた。
お昼を一緒に食べようと話していたのに、乱菊の書類を確認するのに時間が掛かり、少し遅くなってしまった。
日番谷はどんなに空腹でも先に食事を取ることはないだろうから、早く作ってあげなければとまるで保護者のようなことを考えながら家路を急いだのだった。
「ただいま帰りました」
「おかえり」
まるで待ち侘びていたように日番谷が早く出て来たので、思わず頬が緩んでしまう。
しかし周を見るなり「待ってろ」と言い残し、日番谷が廊下を引き返す。
そしてすぐに戻ってくると、その手には手拭いが握られていた。
「ほら」
「すみません、ありがとうございます」
手拭いを受け取り、死覇装を軽く拭いてから草履の紐を解く。
「急に降って来たな」
「はい、午前中は良い天気だったのですが」
雨が降り始めるのは夕方からかと思っていたから、傘は持って出なかった。
それに少しの雨くらいならば、瞬歩を使えば大して濡れずに済む。
昨日、今日の分の食材を買っておいて良かった。
「昼食、すぐにお作りしますね」
雨が降り始めたことで気温が下がり、少し肌寒さを感じる。
取り敢えずお茶を淹れようと台所へ向かおうとすれば、袖を掴まれた。
振り返ると、日番谷が袖の裾を掴んでいて、どこか不満げな表情をしている。
「すみません、お腹空かれましたか」
「は?」
的外れなことを言ったのだろうか、日番谷は呆れたような顔をする。
「そんなことはどうだって良い」
そう言うと、周の手から手拭いを取り上げ、そのまま袖を引いて歩いて行く。
日番谷の行動の理由は分からないが、引かれるまま着いて行くと、居間に入り、「座れ」と短く言われる。
言われた通りに座ると、頭からふわりと手拭いをかけられた。
「風邪、引くだろ」
ぶっきらぼうな言い方に反して、ぽんぽんと優しく髪を押さえられ、日番谷の不満げな表情の理由を理解する。
そう言えば、食事のことばかり考えていた為に髪の毛を拭くのを忘れていたかもしれない。
「ありがとうございます」
雨が死覇装に染み込むように、温かさが胸に広がっていく。
日番谷の不器用な優しさは、いつも周の胸を一杯にする。
「あとは自分で拭きます」
いつまでも拭いてもらっているのが申し訳なくなり手拭いに触れるが、日番谷は手を止めない。
「あの、隊長…?」
「お前は、自分のことになると雑になるきらいがある」
言われて、少し考える。
「そうでしょうか…」
「そうだ」
だから、このまま拭いてくれるのだろう。
素直に任せることにして、目を閉じる。
雨音と、髪を押さえる手が心地良い。
自分のことを雑にしている自覚はないけれど、日番谷にこうしてもらえるのなら、そのままで良いのではないかと思う。
少し早く降り出した雨に感謝をして、微笑んだ。