雪解け(おうち掌編) | ナノ
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夜明け前のないしょ



薄く瞼を開けると、外は暗かった。
その暗さから、いつも起床する時間よりも早いことを悟る。
今日は二人揃っての非番だから、少しゆっくり起きようと就寝前に話をした。
昨日は任務で帰宅は深夜だったし、まだ眠気が残っている。
もう一度眠ろう。

隣の布団を掛け直そうと振り向くと、日番谷はぐっすり眠っていた。
すうすうと小さな寝息を立て、あどけない表情で眠る姿は、とても、とてつもなく可愛い。
この姿を隣で見ることが出来るのは、日番谷の祖母と雛森を除くと自身だけの特権で、その優越感にいつも周の胸はきゅっとなる。
周は、眠る日番谷を見つめているのが好きだった。

「ん……」

微かに声が漏れ、もぞ…と日番谷が動く。
小さな身体で身じろぐ姿さえ可愛いと思ってしまうのは、恋人の欲目なんかではない。
普段の日番谷からは、その名の通り獅子のような気高さや凛々しさを感じるが、こんな時は小動物、まるで仔猫のような愛くるしさを感じるのだ。
絶対に嫌がるだろうから、決して本人には言わないけれど。

日番谷の動きが止まったかと思うと、きゅっと、その眉間に力が入り、皺が刻まれる。
むっと口をへの字に曲げ、腕組みでもしていそうなその表情。
まるで、いつも副官を叱っている時のようなそれ。
日番谷は目を開けていないのにも関わらずそれと分かるのは、その光景を毎日傍で見ているからだろう。

「……もと、」

ごにょ、と不明瞭に呟かれた言葉だったが、確かに乱菊を呼んだ。
夢の中でまで困らされているのだろうか。
ふふ、と周は声を出さずに笑う。
手を伸ばして、人差し指でそっと眉間に触れる。
起こさないよう、宥めるように優しく円を描いて解すと、ゆっくりと眉間の皺が消えていく。

「…ふ」

そして力の抜けた吐息と共に、日番谷はふにゃりと笑った。
普段は決してしない、幼いその笑みに、釣られて力が抜ける。
きゅんと胸を甘く締め付けられる痛みに、眉が下がり、思わず下唇を少し噛んでしまう。
ああ、可愛い。
声を出さずに呟いて、皺のなくなった額にそっと唇を寄せた。


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