「あー、こないだの彼女ッスか!」
「こんなの偶然では片付けられないですね、オカルトっぽい」
「何言ってんだ中村、それを言うなら運命だ」
「何でもいいッスよ、小堀先輩よかったじゃないッスかまた会えて!」

ちょっと黙っていてほしい。というか頭を整理させてほしい。なんだってこんなことに…だって、まさか彼女がこんなところ歩いていると思わないじゃないか。自分でも何でかはわからないけど、ナンパは決行しなければならないからとりあえずあの子に、と思って声をかけて、で、まさかの展開。

「小堀このやろ〜見せつけやがって〜」
「いや、だから違うんだよ!後ろ姿で気付かなくて、多分、無意識で、その」
「でも声をかけたってことはやっぱり無意識でもタイプってことじゃないッスか?」
「彼女の後ろ姿を見て無意識下の第六感が働いた的な」

あああもうちょっと黙ってて!?なんかどんどん恥ずかしい奴になる!あの子も若干苦笑いだし黄瀬シャラシャラしなくていいし中村メガネくいっしながらドヤ顔しなくていいから!!

「あ、あの…」
「ご、ごめん!何?」
「いえあの、どうすれば」
「へっ」
「いやさっきお茶って言ってたので…」
「ええええいやそんな!ごめんなさいほんとに!!迷惑だよねごめんホント!」
「や、あの、別に迷惑じゃ…あの、結局お礼出来なくて…」
「え?」
「私女子高だから、よく考えたら男子バスケの試合とかあんまり見る機会もなくて、こないだ言ってたお礼も出来ないから、だから」
「だ、だから…?」
「そこのお店のアイス奢らせてください、美味しいらしいですよ」
「えっ…そんな、悪いからい「小堀先輩行くべきッス!」「そうですよもったいない」

いくらお礼だからといって、女の子に奢らせるのはあまりにも忍びない。慌てて断わろうとするのを、黄瀬と中村に制された。俺たちはいいから、とぐいぐい背中を押される。渋っていると、黄瀬に耳打ちされた。

「とりあえず仲良くなってみればいいじゃないッスか、悪い子じゃなさそうッスよ?」
「それは分かるけどさ…」
「タイプじゃないとか?」
「そうじゃなくて…」
「まーそんな重く考えなくてもいいと思いますよ?それにそうこうしているうちにホラ森山先輩が」

黄瀬が指差す方にはあの子に声をかける森山と苦笑いというか引きつった笑いのあの子。森山のその行動力は一体なんなんだ。相変わらず(森山曰く)女の子の喜ぶ言葉を羅列しまくる森山を制そうと、森山の肩に手を置いた。

「森山ー…」
「んな怖い顔するなよ小堀、お前が行かないなら俺が彼女を教会へ攫ってブーケトスして家庭を築いて運命を共にするぞ」
「うわっ森山先輩キモいッスよ何段飛びしてるんスか」
「ち、ちょっとみんな黙って?えっと、あのさ、いいの?」
「は、はい、私は全然」

森山に引っ張っていかれるのは、その、なんか嫌だ。というか森山じゃなくても、なんか嫌かもしれない。そりゃあまだ彼女の名前も知らないくらいだけども。夏のじりじり照りつける太陽の、その暑さの所為かもしれないけれど。名前を知りたいだなんて思ってしまって、俺は多分、少しおかしくなってるかもしれない。だからだと思う、こんなことを言ったのは。

「えっと、森山じゃなくて俺、で、いいかな…」
「は、はいもちろん!」

森山が後ろで涙目になっていたことは、後から中村に聞いた。