外でじりじりと焼かれた皮膚は柔らかく冷やされ、額や背中に滲んでいた汗は自然にすっと引いていった。お店の中は丁度いい具合にクーラーが効いていて、変に冷え過ぎず心地よい。
いざアイスを買う時になって、小堀さんはやっぱり俺が払うなどと言い出した。が、しかしだ。そこは譲れない。頑として私が払うという意思を突き通した。お礼なのだからそこはフツーに奢られていいのに。やっぱり優しい人なんだなぁと1人納得しながら、買った2つのアイスのうち1つを彼に手渡した。

さっきまで小堀さんと一緒にいたバスケ部のチームメイトさんたちは、どこかでテキトーに時間潰すから、と私たちの背中をぐいぐい押して、それからショッピングモールへ入っていった。つまり今は小堀さんと二人きりということである。空いていた窓側の席に向かい合わせで腰掛けたはいいものの、正直小堀さんのことを知らなさすぎて何を話したらいいのやら。「あ、美味しい」とか、口にしたアイスの感想言ってる場合じゃない。

「うん、美味しい。ごめんな、わざわざこんな…」
「いえいえそんな!」

そういえば小堀さんって何年生なんだろう。何も知らないからずっと敬語にさん付けのまま話してるけど、どうなんだ。小堀さん落ち着いてるし年下ではないだろうし。

「あの、小堀さんって何年生なんですか?」
「3年だよ」
「あ、同い年なんですね」
「そうなんだ?じゃ、敬語使わなくていいよ」
「そう…だね、うん」
「それでさ、俺も聞きたいんだけど」
「はい?」
「名前まだ、ちゃんと聞いてなかったからさ…」

困ったように眉を下げて笑う小堀くんを前に私は愕然とした。え、アレ私名乗りもしなかったのかひょっとして。名乗りもせず本当にただお礼だけして帰ったのかあの日。なんてこった、礼儀も何もあったもんじゃないと心の中で頭を抱えた。

「すいません名乗りもしないで…」
「いや俺もちゃんと名前言ってなかったし、ごめん。俺、小堀浩志っていいます」
「みょうじなまえです」
「みょうじさん」
「はい」

小堀くんの低い声で名前を呼ばれた瞬間、体中の血が頭に昇るような感覚がして、顔が一気に熱くなっていった。自覚はしている。絶対今、顔赤い。バレないように俯いて、少しでも温度を下げようとアイスを大きめに掬って口に入れた。口の中で溶けたアイスを喉でつかえてしまわないようぐっと飲み込んで、小堀くんのほうに目を向ける。ぱちりと視線がぶつかってしまって、また熱くなる。クーラー効いてて良かった、アイス食べてて良かった、でもちょっと足りないくらい熱い。しかし変に目逸らしたらそれはそれでおかしいというか意識してる感満載だしで、一体私はどうしたらいいのやら。

「あっあのさ、みょうじさんはあれから体調大丈夫なの?」
「え?あーハイおかげさまで!回復力には自信あるから!」
「そっか、それは良かった!」

お互い妙な雰囲気になりそうなのを察したように、パッと話題を切り替える。しかし回復力に自信があるってなんだ。自分で言っといてなんだがおかしい。
目線が自然に逸れたおかげで少しは頭の中が冷えたのか、その後は案外いい感じに話をすることが出来た。小堀くんのチームメイトさんの話とか、休日は山で星を見ているだとか、今の時期綺麗に見える星座の話とか、私が聞いたこと1つ1つに小堀くんは丁寧に答えてくれた。

気付けば日が落ちかけていて、話もひと段落ついたところでそろそろ帰ろうか、となった。

「じゃあ出よっか」
「う「何でスか!何でメアド交換とかしないんスかぁ!」
「え」
「あ」

席を立つその瞬間、突然私たちの斜め前あたりに座っていた人が大声を出した。なんだなんだと声のほうを見やるとそこにはモデルの黄瀬くん。そして例の謎のイケメンモリヤマさんとメガネナカムラくん。私自分のことでいっぱいいっぱいで気付いてなかったけど、ひょっとして、この人たち最初から見てたんじゃ。

「黄瀬?いつからいたんだ?」
「え、いやごめんなさい最初からッス…」
「小堀怒るな、ただ俺たちはお前を見守りたくて」
「森山先輩はずっとニヤニヤしながら実況してましたよ」
「中村テメェ」

この人たちは本当、なんていうか、こう…濃い。小堀くんも、いつもこの濃ゆい性格なチームメイトさんたちと一緒で、大変だろうけど…楽しいんだろうな。恥ずかしさで目眩を感じつつ小堀くんのほうを盗み見てみると、苦笑いでチームメイトさんを眺めている。ナカムラくんの胸ぐらを掴んで揺するモリヤマさんにお店にいたファンの子にサインをせがまれる黄瀬くん。カオス状態を見兼ねた小堀くんはみんなに店から出るよう声をかけつつ肩を軽く押した。どう見ても子供を宥めるお父さんの図だ。



「すいません、ファンの子が騒いじゃって…大声出しちゃう前までは気づかれなかったんだけどなぁ」
「モデルアピールタイムはどうでもいい」
「んもーひどいッス!」
「それより君たち、連絡先も交換せずにサヨナラって、それでも花の高校生か」
「えっ」

振り向き様にビシッと私と小堀くんを指差すモリヤマさんに、思わず2人して目を見合わせる。
かくしてメアド交換なんか頭になかった私と小堀くんは、無事お互いの連絡先を交換するに至った。いつも会うたびなんか怖い運命アピールをするモリヤマさんも今回ばかりはファインプレーと言わざるを得ない。