「ひ、広い…」

海常高校、初めて来たけどこんなに広いとは。たくさんの緑がさっぱりとした綺麗な白の校舎によく映えていて、清潔感溢れる学校だと思った。そしてなにより。

「男子と女子が普通に一緒にいる…」
「そりゃそうでしょ」

女子しかいない学内で過ごしているせいで感覚が鈍っているけど、共学では男子と女子が並んで歩く。それが普通なんだ。グレーのブレザーを着た何組かの男女が仲良さげに歩いてくる。え、なにあれ?カップル?すごい学校内に普通に男女カップルがいる。そうかこれが…これが共学か…。なんかこう、男女関係において共学と女子高の圧倒的な差を感じる。いいなぁ。

「そうだ、どうやってその人探すの?名前知らないんでしょ?」
「え?あぁジャージ着てたから運動部の人かな、と」
「…え、手がかりそれだけ?嘘でしょねえ」
「だ、だってあの時は色々大変だったから!」

あからさまに眉間に皺をよせた友人。そんな嫌そうにしなくても。それに運動部全部パパッと見て回ればそのうち見つかりそうだし、なんて甘いことを考えている私に友人は甘くなかった。

「海常の運動部、一つ一つがかなりの実力かなりの人気で人やばいって、知ってんの?」
「うっ…ま、まぁ頑張れば見つからないことはないかと」
「げー、疲れそう。じゃあ先にバスケ部いこう。黄瀬氏からサインもらわないと」
「え、まさかそれで帰ったりしないよね?ね?」

返事なしでさっさと先を行く友人に取り残されないよう、とにかく口ではなく足を動かした。



「うっわ」
「すごい…」

広い学校だけに自分たちの力だけではバスケ部のいる体育館には辿り着けず、海常高校の生徒らしき人に尋ねながらようやく到着。この体育館すべてをバスケ部が使ってるのか。強豪ってすごい。ボールの弾む音やバッシュの音、たくさんのかけ声が響いている。中を覗くと、タイミングよく休憩の合図がされた。
しかし、何より気になるのが。

「キャー黄瀬くぅーん!」
「こっち向いてー!!」
「やだスポドリ飲んでる!イケメン!!」

モデルパワーがとめどない。え、スポドリ飲んだだけで騒がれるって何?黄瀬くんがスポドリ飲んだら何が起こるの、なんか珍獣みたい。黄瀬ファンってなんかパワフル。こりゃサインなんてもらえたらホントに良い値で売れちゃいそう。
ああ、でも確かに黄瀬くんってかっこいいな、身長も高いし。試合中なんかきっとファン卒倒レベルだろうな。やっぱり身長高い人がするスポーツの代表っていったら、バスケとかバレーとか、かな。ひょっとしてあの人もバスケ部だったりして。なんて、そんなうまい話あるわけがないってね?

「あああああ!!?」
「うわっうるさっ」

場所を考えず大声を出したせいで体育館中に声が響いてしまった。しまった恥ずかしいめっちゃ注目されてる穴があったら入りたいし無いなら掘って埋まりたい。あぁでもいたあの人!けどこっち見てるごめんなさいうるさい奴で!!間違いない、あの青いジャージは着ていないけど、この体育館の中で一番かもしれないほどの長身、黒い短髪に優しげな顔つき。
紛れもなく、あの時の人だ。