例の青ジャージさんの居場所は、友人に聞くことで案外すぐに特定することができた。
海常高校。スポーツ系の部活に力を入れていることで有名で、その道の人なら知らない人はほとんどいない全国区の実力がある高校らしい。特にバスケ部はかなりの実力者揃いで、モデルの黄瀬という人が入ったことでますます有名になったとか。ついでに女子のファンも増えたらしい。

お礼とお詫びのために海常行きをしなければ、とは思ったものの、いざ行くとなるとちょっと尻込みする。他校なんてそんなに行く機会はないし、まして部専用の体育館まであるなんて、想像するにかなり広い。あの人を探し出すのも容易なことではないだろう。それに海常に知り合いがいるわけでもない。ついでに女子高に長く通ってたから共学ってなんか未知の世界。

「あのね、行く前からそんな弱気でどうすんの?」
「いや、だって他校に入るのって緊張するしさ」
「あんたねぇ…」
「行ったところで見つかるかどうかも微妙だし…」
「ゲロって世話させた人にお礼もお詫びもしないままでいいの?それは人としてどうなの?その人がいなかったら電車でゲロってたんでしょ?」
「やめてー思い出させないでまだ恥ずかしいんだから!」

遠慮ゼロな友人の言葉が突き刺さりまくる。挫けそうもうブロークンハートライフゼロ。帰りにいつも使う電車であんな目にあって以来、使う車両はずらして時間もずらすようにした。3日経ったけどまだ鮮明に思い出せる。ちょっと気持ち悪いけどまだ大丈夫まだ大丈夫と思っていたらいきなり襲ってきた嘔吐感。トイレに辿り着いた安堵からかいっきに喉の奥からせり上がってきたあの感覚。あ、だめだ思い出したくない。吐くなんて久々だった。
一応そのまま病院に行ったら、貧血と夏バテが原因らしい。暑くてあまり食欲がなかったのもあったみたいで、入院はしなかったものの数時間かかる点滴をしてもらい2日間は家で大人しくしていた。今日2日ぶりに部活に復活し、友人に事の顛末を話したら心配する前に爆笑された。この薄情者め。

「わかったわかった、私もついていくから海常いこう」
「え、いいの?付き合ってくれる?」
「うん、黄瀬くんに会いたい」
「ファンなんだ、知らなかった」
「違うただサイン貰って黄瀬ファンに売りさばきたいだけ」
「理由がひどいよ」

モデルさんに会いたいなんて可愛いところあるなと思ったらこれだ。けどついてきてくれるのは有難いし心強い。共学も2人で行けば怖くない。

「あ、行くなら今日行くからね」
「えええいやいや待っていくらなんでも心の準備が出来てない!!」
「じゃあ付き合わないよ勝手にしな」
「つ、突き放された…」
「善は急げってね」

にやりと笑いサインをいくらで売るか画策する友人を前に何も言い返せず、私の選択肢は一つに等しかった。