学校帰り、一人駅の構内で人混みを避けながら改札を目指した。ふと見覚えのある綺麗なキラキラの後ろ姿に足が止まる。すれ違う人たちは突然立ち止まった私を怪訝な目で見るが、今はそんなの気にしていられない。少し早足でその姿を追ったがなかなか距離は縮まらない。さすがはバスケ部エースというか、モデルだけあって足も長いのか。

「き、黄瀬くん…ちょ……待って」

必死に足を動かしようやく肩を叩ける距離に届いた。息も切れ切れな女に急に声をかけられた黄瀬くんは警戒しているのが雰囲気で伝わってくるくらいピリピリしながら振り返ったが、その女が私だと分かるやいなやパッと雰囲気が柔らかくなった。

「なんだみょうじさんか〜久しぶりッス!夏祭り以来ッスよね?」
「うん、久しぶり…てか、歩くの早い、黄瀬くん……」
「す、すいません、大丈夫ッスか?」
「うん…ち、ちょっと息整える…」

何度か深呼吸を繰り返して、ようやく激しかった動悸も落ち着いた。運動不足甚だしいぞ。

「そんなに急いでどうしたんスか?みょうじさん」
「うん、あの、ずっとお礼言わないとと思ってて」
「お礼?」
「夏祭りの時、みんな気を遣ってくれたでしょ?」

やっとちゃんと言えた。
夏祭りの時、小堀くんと二人になれるようにみんなで気遣ってくれたこと。ずっとお礼を言わなければと思っていたのだ。あの時小堀くんにきちんと自分の気持ちを伝えられたのは、黄瀬くんや森山さん、みんなのおかげだ。すぐにお礼を言えたらと思っていたけど、夏祭りの時はあのままほとんど小堀くんと二人きりだったからきちんとありがとう、なんて言う時間がなかったのだ。

「ああ!いやいやそんな、わざわざお礼なんていいんスよ!」
「でもやっぱり、ちゃんと小堀くんと話せたのはみんなのおかげだし、黄瀬くんもありがとう」
「いや〜、小堀センパイにはいつもお世話になってますから」

当然のことをしたまでだと笑う黄瀬くんは基本チャラいけど本当にいい子なんだと思う。チャラいけど、きっと、きちんと人を思いやることが出来る人だ。やっぱりチャラいけどモデルもやってバスケもやってで、高校一年生にして苦労してるんだろうし、その分気の遣い方とか慣れてるのかもしれない。

「そういやみょうじさんは小堀センパイとはどんな感じなんスか?上手くいってます?」
「うん、たまに会ったりメールしたりしてる。順調…って言っていいのかな、多分」
「へ〜良かった!じゃあ今から小堀センパイに会いにいくんスか?」
「え、今日は会う予定は…」
「えっ」

終始気さくでニコニコしながら話を聞いていてくれた黄瀬くんはわかりやすく急に固まった。笑顔も引きつった。当然だったから驚いたが、一体何が引っかかったのだろうか。

「え、その、えっ、は何?」
「いや、あの…」
「な、何なに怖い」
「き、今日…」
「うん」
「小堀センパイの、誕生日…」

は、今なんて?黄瀬くん、今、今日が小堀くんの誕生日って言った?

「っはあああ!?」
「うわっビックリした」
「え、今日小堀くん誕生日!?嘘でしょ聞いてない!!」
「え〜てっきりもうとっくに知ってるもんだと…マジすか」
「ま、マジすよ」
「当然なにも用意は…」
「してる訳」
「ない…スよねぇ…じ、じゃあ今から買いに行きましょ!俺も選ぶの手伝っ…ダメだ今日久々にモデルの仕事入ってるんだった…て、時間ヤバイ!」
「ご、ごめんね足止めしちゃって…大丈夫、自分で頑張ってみる…」
「いや待って!今森山センパイ駅に向かってるらしいんで、森山センパイに相談してみてください!」
「えっちょっ」
「すいません時間がやばいんで!」

また今度ッスみょうじさん〜という声を響かせながら黄瀬くんは猛ダッシュで改札に向かい人混みに吸い込まれていった。その人目をひく後ろ姿が見えなくなっていくのを、私はただ見送るしか出来なかった。待ってくれ私は一体どうしたらいいんだ、森山さんが来るっていっても、森山さんの連絡先私知らないし、ここで待つしかないの?立ち往生?どうしよう?

「やあみょうじさん」

なんとなく聞き覚えのある声に振り返ると、そこには何故かめちゃくちゃカッコつけた森山さんが立っていた。
ほ、本当に来た。