初雁の候、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

なんて、大層な書き出しにしたけど、なんてことない手紙なので、どうぞ足を崩して気を楽にして読んでください。

私が伊作に言いたいことは、ただ一つです。
来てくれて、私を助けてくれて、有り難う。ここで一緒にいると言ってくれたこと、本当に有り難う。

有り難う、この一言に尽きます。

伊作がここに来た時、伊作のことが神様みたいに見えた。真っ白な光の中で笑う伊作が、何だか自分の知る伊作とはかけ離れているように思えた。
だけど、伊作は伊作でした。
相変わらず何かと不運だし、すぐ転けるし、ぼーっとしてるかと思えば、ちゃんと私を見ていてくれた。
伊作は変わらないな、と思いました。

そんな伊作が来てくれたからこそ、私も、最期まで私らしく生きようと思えた。
伊作、私は最期まで私らしく生きていられたかな。
私が自分で思う「私」と、伊作がこうだと思う「私」。少し違うかもしれないけど、どうだろう。

伊作が私をどんな人間だと思っていたか、私をどう思っていたか。
知りたいけど、怖くもある。だから聞かずにおこうと思います。

私は伊作のことが好きでした。きっと、恋情というものなのでしょう。
今、照代ちゃんが隣でめちゃめちゃ頷いてます。
勝手に、一方的にこんなことを伝えるのは、我ながら狡いもんだと思います。
でも、伊作だって急に現れたし、急に一緒に住むとか言い出すし、身勝手はお互い様ということで。

ヌケサクなようで、でも相手のことをきちんと見ていて、人を救うことにいつだって全力で、勉強熱心で、でも不運で、でも、不運なんか気にしないで生きる。
そんな伊作が好きです。
伊作のことが、大好き。
きっと口には出せず仕舞いになってしまうと、自分が一番よくわかっているので、せめてここに記しておこうと思います。

なんだか今更ながら恥ずかしくなってきたのですが、紙が勿体無いので書き直しはしないことにします。
でも、出来れば読んだ後、すぐに燃やしてほしいです。

そうそう、お礼になんかならないかもしれないけど、私が仕事の最中に見つけた、昔伊作がよく探して回ってた薬草がたくさん生えている場所を書き出しておきます。
何も出来ないけど、せめてものお礼。
愛の告白なんて一銭の価値もないけど、これはそれなりに役に立つはず。

今、照代ちゃんが隣でめちゃめちゃ怒ってます。こんなの全然ろまんちっくじゃないって言ってます。ろまんちっくって何ですか。ちょっと調べて墓前で教えてください。

結局これが何なのか、ですが、単なる御礼状兼恋文のようなものです。
ただそれだけの代物です。

私は多分もうこの世にはいないだろうけど、もし天国地獄、生まれ変わりなんてものがあるなら、また会えるかもしれないね。
その時はよろしく。私のこと忘れてたら手裏剣打つから。

体には気をつけて、あんまり無茶しないで、って書いても多分無茶するんだろうな。
でも伊作は伊作らしく生きて。それが私の最後の、一番の願いだと思う。伊作のおかげで私がそうあれたように。

じゃあね、有り難う。
大好きよ。

みょうじなまえ



「えーと、ロマンチックとは、現実を離れ、情緒的で甘美なさま。また、そのような事柄を好むさま。空想的。だって。よく分かんないよ僕も」