■ ■ ■

物事には決まった手順がある。それを遵守すれば事がうまく運ぶような、そういうものが。オレは手順を間違わない。山神様とあの子を引きあわせる、大切な手順は。


◇◆◇


「それでは、申し訳ないのですが、お願いしても?」
さよ、と名乗った少女は特に警戒もせずに、その手をこちらへ差し出した。そっとその手を掴む。少女らしくふっくらとしていて、温かくて、……そして微かではあるものの、確かに、『彼女』の気が感じられた。そうして案内した文具店で、主人に頼まれたという墨だけでなく、あれこれと色々なものを買い足したさよさんは、くるりとこちらを振り返ってすこし困ったように笑った。
「……大変申し上げくいんですが、わたしどうやら買いすぎてしまったみたいで。お嬢様がいらっしゃるお屋敷は結構遠くて大変なんですけれど、よろしければお屋敷まで荷物を持って行くのにもお力添え頂いてもいいでしょうか…?」
『彼女』のいる屋敷まで行けるというのなら願ったり叶ったりだ。オレは一も二もなく頷いた。

「遅くなりました、さよです。お嬢様、只今帰りました」
彼女はそう言って、頑丈そうな扉をがらりと開けた。
「さよ……随分遅かったでしょう。心配したのよ?大丈夫だった?」
そこには、シンプルだが上質そうで、それでいて動きやすそうな袴に身を包んだひとりの少女が立っていた。長く艶やかな黒髪を緩く編んで横に流している。
まず、オレが初めに目をとめたのは彼女の大きな瞳だった。紫水晶のように深い色をしたそれはまるで、オレのよく知るあの人のような色で。
「……東堂、さん……?」
我知らず、オレは掠れた声で小さくそう呟いた。

「……真波さん!真波さん?」
さよさんの声でオレはふっと我に返った。彼女も彼女の主人も、黙り込んだオレを訝しげに見ている。
「あ、すみません。ちょっとぼうっとしちゃっただけですよ」
そう言って笑ってみせると、彼女の表情はふっと綻んだ。そして、主人の方に向き直って言う。
「碧様。わたしが市で迷っていたところを助けてくださって、更に荷物をこちらまで運んでくださった真波さんです」
「さよ、やっぱり迷ってたんじゃない……真波さん、うちの使用人が大変お世話になりました。市の案内どころか、こんなところまで来ていただいて、本当に申し訳ありません」
碧様、と呼ばれた少女はそう言って頭を下げた。それに慌てて、頭を上げてくださいと告げると、彼女はこう続けた。
「そうだ、もしよろしければ、こちらですこし休憩して行かれませんか。大したものはない家ですけれど、ここまで荷物を持って歩いて来られたのならお疲れでしょう」
そう言って彼女は微笑む。そうすると、大人びた表情が年相応のものになって可愛らしい、と思った。「いえ、オレはここまでで大丈夫ですよ。すこし用事を思い出したので」
オレはそう言って断る。せっかくの言葉に甘えたくもあったのだが、そんなことをするとオレが後で怒られてしまいそうだから。

またいつでもいらしてくださいね!
そう言って名残惜しそうに送り出してくれたふたりと別れて、オレは急いで帰途につく。
「見つかりましたよ、……東堂さん」



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