■ ■ ■

『見つかりましたよ、……東堂さん』
その言葉を聞いて、青年はふっと表情を緩めた。
「そうか、真波。……よくやった」
整ったかんばせに笑みを浮かべて、連絡を寄越した相手をねぎらう。
「……碧」
小さく呟いた青年の、深い色の瞳が陽を反射してきらりと光った。


◇◆◇


「……碧様、また書庫に籠っていらっしゃったんですか」
真波と名乗った青年が帰ってしまってからすぐに再び薄暗い書庫に戻ってしまった主人を探しあてて、さよは呆れたように小さく溜め息をついた。
「……さよ」
「修行に励まれるのはよいことですけどね、碧様、」
たまには休息もとらないとそのうち倒れますよ、本当に。そう告げて、さよは重い木製の扉を開け放った。
「山神様にお仕えし、この箱根の郷に安寧をもたらすのがわたしたちの役目だもの。このくらいの修行を積むのは当然のことだわ」
にべもなくそう言った碧にさよは苦笑した。本当に真面目な人だ、それも彼女の美徳ではあるけれど。確かに碧の言ったことは紛れもない事実でもあった。
―――修行。
碧―――一碧の生家である一家は代々、彼女たちの暮らす箱根山を統べる神である『山神』を祀って暮らしてきた、神官の一族であった。一族の者は皆、『山神』に仕えるために日々修練に励むのである。
そもそも、『山神』とは何か。
それを説明するためには、少々時を遡ることになる。




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