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取りとめのない話をしながらカイルさんがキッチンを片付けるのを手伝って、それが終わると今朝までの分の洗濯物を取り込んで、新たに今朝集まった分を洗って干す。そして、その次はどこかの部屋を掃除するのが数日間で出来たわたしの日課だった。そうだ、今日はシャンクスの部屋にしよう。...うん、何となく散らかってそうな気がする。

わたしの予想に寸分違わず、シャンクスの部屋は見事に散らかっていた。洗濯物は宴の日の翌日から出してもらっているけれど、書類だったり、海図だったり、空になったワインの瓶だったり...そういうものが所構わず置かれているのだ。唯一、ベッドと机の辺りだけはある程度片付けられていたが...これは掃除のしがいがありそうだ、とわたしはひっそりため息をついた。

「お、リル、今日は俺の部屋を掃除してくれるのか。ありがとな」

...本当はもう少し片付けて、なんて小言を言おうと思っていたのに、邪気の無い笑顔でそう言われてしまえばもうそんな考えはどこかに行ってしまった。取り敢えずシャンクスには机で書類に目を通しておいてもらうことにして、わたしはてきぱきと散らかっていたものたちを片付けていった。わたしのその様子を見て、シャンクスがぽつりと言った。

「なあ、リル。...そんなに働き通しで疲れねェか?」

その言葉に含まれた懸念と心配の色を感じ取って、わたしは知らず知らずのうちに笑みを零した。

「大丈夫、シャンクスが思ってるようなことを考えてしてるわけじゃないよ。...これまでは戦闘訓練しかしてこなかったから、物珍しくて、すこし面白くて。それで色々やってただけ」
「そうか」

わたしの言葉を聞いて、シャンクスは安堵したように微笑む。

「リルが楽しいなら、それでいいか」

二人して笑顔になっていると、ドアをノックしてこの船の航海士であるルークさんが入ってきた。

「お頭、それにリルも。そろそろ島に着きそうだ」
「よし!──野郎共、上陸だ!」

シャンクスはドアを開けてそう宣言すると、わたしを振り返って言った。

「リル、行こう」

差し出された手をそっと掴む。──こうしてわたしたちは、ライン島に上陸したのだった。

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「こちらなどはどうでしょう、よくお似合いですよ」
「あァ、じゃあそれも貰おうか」

既に出来上がっていた服の山に、また一着が追加される。

「シャンクス、取り敢えずこれだけあれば大丈夫だよ」

見兼ねたわたしはシャンクスの服の袖をすこし引っ張ってそう告げる。

「そうか?──よし、じゃあ精算を」

島に着いてから、ずっとこの調子だった。既にベッドやドレッサーなど、様々なものを揃えて貰っている。何から何まで申し訳ないのだが、そう言うとシャンクスもベックさんも、気にするなと笑うだけだった。

「よし、じゃあ次の店に──」
「止めてッ」

シャンクスのその言葉は、恐怖に満ちた女性の悲鳴に遮られた。

「...何?」

店から出て通りに目を遣ると、チンピラのような格好をした男たちが、怯えて震える小さな子供とそれを庇うようにして蹲る母親らしき女性を取り囲んでいる。

「...何があったんだ?」

精算の前に店の外に出て待っていてくれたベックさんにシャンクスが訊ねると、ベックさんは不快そうに顔を顰めて答えた。

「あの子供が道を歩いていたあいつらの前を横切ったんだが、奴らはどうもそれが気に食わんようでな...みっともなく怒鳴り散らしていて煩かったところだ」
「...俺たちを誰だと思ってんだ、この糞ガキ!」

罵声を上げて、男たちのひとりが女性に向けて銃の引鉄を引こうとする。──咄嗟にわたしは、その銃を蹴り飛ばしていた。驚愕の色を多分に含んだ沈黙が辺りに落ちた。
月と知らずに泳ぐ

レイアウト若干修正(03. 06)

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