□ □ □

──その日の朝、レッド・フォース号の甲板には何故か人集りが出来ていた。その中央ではわたしとレイ──航海士見習いの青年──が対峙している。集まってきた船員たちは何をしているのかというと──

「やれー、リル!」
「レイ、しっかりな!訓練の成果を見せろォ!」

...どうしてこうなった。

「おーい、お前ら朝っぱらから何してるんだ?」
「あ、シャンクス。おはよう」

騒ぎに目を覚ましたのだろう、シャンクスも起き上がって此方へと歩いて来た。この船に乗って数日、海賊団にすっかり馴染んだわたしはいつの間にか敬語も抜けて、互いに随分と砕けた話し方になっている。

「おう、おはよう。...これはなんの騒ぎだ?」

まだ眠そうに目を擦りながら訊ねられて、わたしは苦笑した。

「あー...これね、ちょっと...手合わせをしようって話になって」

何のことは無い、わたしが最早日課となっている朝の鍛錬をしていたところ、偶々そこを通りかかったレイが手合わせを提案してくれたのである。
そこまで説明すると、何故かシャンクスは目を輝かせて言った。

「リル、手合わせするのか!よし、俺も見ていこう。あれから何日か経つが、お前が戦ってるのはきちんと見たことねェからな!」

...うん?─そう、手合わせをすると言うと、皆揃ってそう言ってギャラリーに加わるのだ。やっぱりわたしの能力が気になっているんだろうか。

「そういえば、リルは素手でいいのか?レイはサーベルを使うが」
「うん、それは問題無い。──よし、レイ、始めようか」
「おう!」

レイはすらりとサーベルを抜き、お互いに構えを取る。──こうして、戦い──といっても手合わせだけど──の火蓋は切って落とされたのだった。

レイは無駄のない動きでまっすぐ斬りかかって来る。さすが赤髪海賊団、見習いとは言えども腕の立つ者ばかりらしい。内心舌を巻きながら次々と繰り出される剣戟を躱していく。

「...っ、これで、終わりだッ」
「──武装色、硬化」

思い切り振り下ろされたサーベルを、覇気を纏わせた腕で受け止める。弾き落とされたサーベルの甲板に転がる音がやけに耳の奥に響いた。

「...凄ェ!」

1拍置いて、甲板が歓声に沸く。

「凄いな、リル!覇気なんか使えるんだなァ!」

サーベルを拾い上げたレイも目を輝かせて言う。──と、そこに朝食の完成を告げるコックの声が響いた。

「──よし!野郎共、飯だ!」

シャンクスのその一声と共に、集まっていた船員たちが食堂へと走り出す。それに混じってわたしも走った。

+++

食事の場は戦いの場でもある。この船に乗って数日間、わたしが学んだことである。最初は勢いよく皿を空にしていく様子に呆気に取られたものだが、今ではもう見慣れた光景だった。

「はい、これがリルの分な」
「ありがとう、カイルさん」

予め取り分けておいて貰った分を、カイルさん──我らがコック長──に渡して貰う。初日の宴から勢いとスピードに圧倒されていたわたしを見兼ねて、こうして用意してくれるようになったのだ。気にすんな、と笑った彼に見送られて厨房を後にして広々とした食堂を見渡すと、ちょうどわたしに気づいたヤソップさんがこっちだ、と言うように手を振ってくれたのでそのままその近くに座る。すると、お前はこっちだ、と言わんばかりにシャンクスに軽く腕を引かれ、そのままその隣に座り直す。

「そういえば、この船って何処の島に向かってるの?」

ふと思いついたことを誰に聞くとも無しに訊ねると、ベックさんが地図を持ってきて説明してくれた。

「次に向かうのはこの島──ライン島だな。リルにとっては初めての上陸だ、必要な物を揃えないとな」
「ありがとう。よし、わたしカイルさんの片付け手伝ってくるね」

礼を言うと立ち上がる。ちらりと目を遣った窓の外に、薄らと島影が見えたような気がした。
一片に綴るひかり

2/18若干加筆修正しました
レイアウト若干修正(03.06)

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