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──その夜、レッド・フォース号の甲板は宴の喧騒に包まれていた。
次々に厨房から運ばれてくるたくさんの料理、船員たちの賑やかな笑い声。...そのうちのどれも、施設に育ったわたしにとっては初めて目にするものだった。...すごいなあ...、とその空気に半ば圧倒されて、甲板の隅の方でその様子を眺めていると、ちょいちょい、と手招きされ、どうしたのかと駆け寄ると笑顔のシャンクスに軽く腕を掴まれる。

「今日の宴の主役はお前だ、リル。そんな隅にいねェでもっとこっち来い」

ぐっと腕を引かれて、気づけばわたしは宴の真ん中にいた。

「リル、酒は飲めるか?」
「...飲んだことはない、ですね」

シャンクスの問いに首を横に振る。そもそもこんなにまともな食事を摂ったのも随分久しぶりのことだった。そう言えば、盛大に驚きの声を上げた船員たちが、慌ててたくさんの料理を取り分けてわたしに持ってきてくれる。

「や、そんな、大丈夫ですって。わたしこれでも丈夫な方で、」
「駄目だ駄目だ、回復力は確かに凄かったが、お嬢さんには如何せん栄養が足りてない」
「ハールさんまで...」

ちょうど此方にやって来たハールさんにもそう言われてしまい、軽く抗議の声を上げる。

「栄養を摂れ、なんて言われたのも初めてです」

そんなことを言いながらも、わたしは初めて食べる様々な料理に舌鼓を打ったり、手渡された酒を一気に飲んで周りに驚かれたりしながら、宴の夜は賑やかに更けてゆくのだった。

+++

宴も闌、気づけば船員の大半は酔い潰れて彼方此方に転がっていた。まだ起きているのは古参の幹部が大半を占め、各々がグラス(或いはジョッキ、樽)を片手に、ある者は船の上で追い続ける自らの夢を、ある者は海の遥か彼方に残してきた大切なものを語り合っていた。かと思えば、何やら集まってゲームに興じる者もいる。...そして、そのすべても眠りに落ち、目を覚ましているのが船長と副船長、そしてリルだけになったとき、リルは2人にそっと訊ねた。

「...シャンクスさん、ベックさん、」
「ん?どうしたリル」
「どうしてわたしをこの船に乗せてくれたんですか?...貴方達もやっぱり、わたしの戦闘力が...」
「それは違ェな」

徐々に尻すぼみになっていくリルの弱々しい問いを、シャンクスは一刀両断した。

「なあ、リル。...目が覚めてすぐ、お前は自分じゃなく、俺の傷の具合を訊いたんだってな」
「...そう、ですけど、」

リルが遠慮がちに頷くと、シャンクスは"分かってねェな"と言わんばかりの顔をして続けた。

「普通、あんな怪我した奴は真っ先に他人のことなんか心配しねェんだよ。...単純に凄ェ奴だと思った。だから、仲間にしてェと思ったんだ」
「、」

先ほどまで酔っていたとは思えないような、真っ直ぐな瞳に射抜かれてリルは思わず息を呑む。

「...怪しい奴だとか、思わなかったんですか」
「どう考えてもお前に嘘をつくメリットはない。...それに、様子を見ていても疑わしさが感じられねェからな」

そう言って、ベックマンも紫煙を吐き出すと首を振って言葉を続ける。

「お前がこれまでモノ扱いされていたのは分かってる。...今日からお前はウチの仲間クルーだ、俺たちは絶対にそんなことしねェ」
「だから、変に遠慮なんかすんな。...な、リル」
「...ありがとう、ございます...」

嬉しさの滲み出るような、声音だった。小さくてもその感情は、確かに船の隅々にまで届いたようだった。そのとき、甲板の彼方此方からわっと歓声が上がる。気づけば酔い潰れていたはずの船員たちは皆、起き上がって嬉しそうに此方を見ていた。

「──リル、赤髪海賊団にようこそ!」
「...っ、ありがとう、」

リルはまるで花がほころぶように笑った。それだけで、その場の空気が数段明るくなる。それを見た船員たちは、この笑顔を──この少女を守りたいと心から思ったのだった。

+++

「...皆さん、いつから起きてたんですか」
「最初から」(幹部連中)
「途中からは。...お頭が爆睡し過ぎんなよ、って」(他の船員)
「リルは絶対にこうやって訊いてくると思ったからな。...心配することなんか無かっただろ?」
「...っ、はい」
うわついた指の記憶

...あったかい赤髪海賊団が書きたいのです。
レイアウト若干修正(03.06)

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