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──其処では、わたしたちはヒトでは無かった。正義の為に身を差し出す実験動物、彼らの言うところのモルモットでしか無かった。

その"施設"では日々様々な人体実験が行われ、それによって"覚醒"させられた子供たちは厳しい軍事訓練を受けさせられていた。わたしも幾度も実験をされ、既に常人では有り得ない身体になっていた。
...其処は、世界政府が秘密裏に設置した「人間兵器」を造るための研究所だった。そして、わたしたちは政府管轄下の科学者たちに、両親のもとから拐われて此処へ連れて来られたのだ。...それを知ったのは、"覚醒"後、訓練を受け始めた頃のこと。同じ部屋に寝起きしていた子供たちのうちのひとりに聞いた話だ。それ以上のことを聞く前に、彼女は帰らぬ人となってしまった。訓練中の事故ということだったが、恐らく殺されたのだろう。...内情を知り過ぎた、不要な道具として。
実のところ、わたしに拐われたときの記憶は無かった。それ以前の、両親の記憶も、恐らくいたであろう友人との記憶も。それもきっと、拐われたときに消されたのだろうけれど。
幸か不幸か、彼女から話を聞いていたわたしに疑いの目が向けられることは無かった。万が一バレていたとしても殺されることの無いように、わたしは派遣される先の戦いで戦果を積み上げ、いつしか"銀の怪物"とまで呼ばれるようになったのだった。

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「それで、突然の襲撃で命からがら逃げ出して来たんです」
「...そうか、苦労してきたんだな」

話を聞き終えると、赤髪は静かにそれだけ言った。ベックマンは黙って葉巻をふかしていたが、やがて言った。

「それで、この先お前はどうするつもりなんだ」
「この先?...全く考えてませんでしたね、どうしようかな。行く宛も無いし、まあ気ままに放浪生活でもしようかなーって」
「じゃあうちに来れば良いじゃねェか」
「...え、」
「そうだ、初めに見たときも戦ってたが、どういう力を持ってるのか訊いても良いか?」
「え、っと、身体能力と治癒力の強化、ですけど...」
「凄いじゃねェか!本当に、うちのクルーにならねェか?」
「え、ちょ、待って、…ベックマンさん、」
「...悪いな、こうなったお頭は俺の手にも負えねェ。諦めてウチに来るといい、歓迎してやる」
「...良いんですか、こんな得体の知れない女を乗せて」
「あァ、心配すんな。...異存はねぇな、野郎ども!」

赤髪がそう言った瞬間、閉められたドアの向こうからわっと歓声が湧いた。...やけに大勢の気配がすると思えば...いつからそこにいた。

「遂にウチにも女が!!」
「やったぞお前ら、初の女性クルーだ!!」

口々に歓声を上げながら、ドアを開けて数え切れないほどの船員たちが雪崩込んでくる。

「お前らうるせェぞ、リルはまだ病み上がりだ!」
「大丈夫ですよ、赤髪さん...いや、赤髪のシャンクス船長。こんな怪物ですが、わたし──銀の怪物、リルは、貴方に命運を預けましょう」

ベッドから立ち上がり、そっと彼の前に膝をつく。すると、スッと手を差し出される。その手を取って立ち上がると、彼は豪快に笑った。

「シャンクスでいい、気楽に行こうぜ、リル。...よし、野郎ども、今日は宴だ!!」

彼──シャンクスが豪快にそう宣言すると、部屋は再び歓声に湧いた。活気に溢れたその様子に、気づけば笑みが零れていた。
夜を征くもの

レイアウト若干修正(03. 06)

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