□ □ □

立ち上る火柱、夜空に浮かび上がる地獄絵図。怒号と罵声、そして恐怖に震える悲鳴に呑み込まれそうになったときに、ミアの絶叫が耳を劈いた。

「リル、助けて、──!!」

混乱の渦に意識を絡め取られそうになりながら、必死に叫んで手を伸ばす。

「ミア!!」

──其処で目が覚めた。自分の絶叫に怯えて慌てて起き上がり、...わたしの第一声は不覚にも間抜けなものだった。

「...あれ、」

何故か寝かされていたベッドの横に、見知らぬ男の姿が見えたのだ。

「...貴方は...?」
「ああ、目が覚めたんだな。俺はハール、この船の船医をしている。どうだ、体調は」
「もう大丈夫です。...わたしはリルと言います。手当てして下さったんですね、すみません。ご迷惑をお掛けしました」
「いや、気にしないでくれ。これが俺の仕事だからな。しっかし...凄い回復力だな、あんた。俺は色々な奴を診てきたが、ここまで...っていうのは初めてだ」

男性──ハールさんは驚いたように言った。一方のわたしは、異常な回復力の理由に見当が付いて苦笑する。

「あはは、それなら良かったです。...ところで、さっき船医、と仰いましたけど、…此処は何処なんですか」
「悪い、説明して無かったな。...此処は赤髪海賊団、レッド・フォース号だ」
「赤髪、海賊団...ってことはあの人...そうだ、赤髪さん、大丈夫でしたか!?巻き込んでしまったと思うんですけど、わたしの所為で怪我してませんか?」
「...それは大丈夫だったが...そうだな。お前、ちょっと待ってろよ。お頭を呼んでこよう」

ハールさんはドアを閉め、赤髪さんを呼びに行ってしまった。...戦闘に他人を巻き込むのは恥だ。...本当に怪我してないといいんだけど。

+++

ガチャリ、ドアの開く音がして、ベッドの上に起き上がる。部屋に入って来たのはハールさんと赤髪、そして確か副船長だったベン・ベックマンだった。

「お前、目が覚めたんだな!良かった、もう起き上がって良いのか?」
「はい、大丈夫です。赤髪さんこそ、怪我してませんか?...すみません、巻き込んでしまって」
「あァ、なんともねェ。気にすんな...っと、そうだ、名前を聞いても良いか?知ってると思うが、俺はシャンクス。この船の船長をしてる。で、横のこいつが副船長のベックだ」

...噂では聞いていたが、赤髪は随分とフランクな人物らしい。

「わたしはリルと言います。...まあ、放浪者ですね」
「...取り敢えず、追われてたことからして訳ありなのはわかってるが...詳しく訊いてもいいか?」
「放浪者、というのも気になるが」

赤髪の表情が真剣なものになり、ベックマンもそう付け加えた。

「...ああ、それも含めてお話しますね。貴方達には恩もありますし」

わたしはひとつ頷くと、施設が襲撃されたことから事の顛末を簡単に説明した。

「...施設の人間は毒の銃弾を使うから...当たらなくて良かったです。あれは確か下手を打つと死ぬので」
「おいおい、物騒じゃねェか。その節は助かった、ありがとな。ところで、...ベック、新聞貸してくれ」

赤髪はベックマンから新聞を受け取り、わたしに見えるように広げてみせた。

「...ッ、」

そこにあったのは、わたしの手配書だった。

「...これに心当たりはねェか」

神妙に訊ねる赤髪の言葉に苦笑をひとつ零して首肯する。

「...まさか早速手配書が回ってるとは思わなかったんですけどね。見られちゃったならしょうがない、全部説明しましょう」

海軍の仕事の早さには呆れる、と重くため息をつき、口唇を湿してわたしは再び口を開いた。

「...わたしは、政府が秘密裏に行った人体実験の被験者のひとりなんです」
花の落涙

加筆修正。公開昨日なのに早すぎですね。すみません。(12.27)
レイアウト若干修正(03.06)

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