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「リルの活躍を祝して──乾盃!」

無事ライン島から出航して数時間の後。レッド・フォース号の甲板では、ベックマンから事の顛末を聞いたクルーたちが賑やかに宴を開いている。発案者であるヤソップに言わせると、今夜はリルの祝勝会なんだとか。彼らが楽しげに盛り上がっている一方、当のリルはというと、宴の輪から一旦抜け出して1人、地平線を鮮やかに染め上げる夕暮れの海をぼんやりと眺めていた。

(──何なんだろう、)

「よっ、リル!聞いたぜ、大活躍だったんだってな」
「すげェな、副船長も感心してたぜ」
「お疲れ様だな。ほら、これも食べるか?」

船に帰ってから、つい先ほどまでにハールやレイたち、他にも多くのクルーたちに掛けられた言葉をぼんやりと反芻する。
何となく胸のあたりが温かいような気がした。労うようにポン、と肩を叩かれ、笑顔で声を掛けられるたびに──そして、船に帰る前にシャンクスとベックマンに声を掛けられたときにも。胸の裡に覚えるほこほことした温かいものを、リルは持て余していた。何となく誇らしいような、嬉しいような。未知の感情との遭遇に、リルはううん、と首をひねった。──と、不意にその肩に軽く手が乗せられる。背後を振り返ったリルは、その手の主の名を声に乗せた。

「シャンクス」
「ここにいたんだな、リル。主役がこんな所で何してたんだ?」

クルーたちに頼まれてリルを探しに来たのだと彼は言う。夕日がその赤い髪に反射して光るのが眩しくて、少し目を伏せる。「夕焼けを見てただけだよ」リルはくるりとシャンクスの方に向き直ると、そっと口を開く。

「あのさ...」
「ん?何かあったのか?」
「そういうわけじゃないんだけど...あのさ、誰かに褒められたり、お疲れ様って言ってもらったときにこの辺りが何となく温かくなるような気がするのって、変?」

この辺り、と言ってリルは大真面目な顔で胸のあたりを示す。その様子に、シャンクスは思わずふっと笑った。「...わたし真面目に訊いたんだけど」とリルはむっとして言葉を零す。もういいや、ベックさんに訊いてくる。そう言って踵を返そうとしたリルを引き止め、シャンクスは言った。

「それが"嬉しい"ってことだ、リル」
「"嬉しい"...?」
「あァ、そうだ。成功して嬉しい、仲間が喜んでて嬉しい、褒めてもらえたらそりゃあ嬉しい。…リル、もしかして褒められたことも無かったのか」
「...そう、兵器に感情など必要無かったから」

はたとひとつの可能性に思い当たったシャンクスの言葉に、リルは目を伏せて頷く。そして、「そうか、これが"嬉しい"...」と顔をほころばせた。

「リル」

不意にシャンクスがリルの手を取る。

「お前は兵器なんかじゃない、例え改造を受けていたとしても、お前は人間だ。...そうだろ?」

まっすぐに此方を見つめて言うシャンクスの言葉に、リルは静かに頷いた。

「──よし!んじゃ、行くぞ!」
「っえ、」

リルの様子を見て満足げに笑ったシャンクスは、戸惑うリルの手を引いて、賑やかに盛り上がるルウやヤソップたちのところへとまっすぐに戻っていく。そして、宴の中心に腰を降ろしてリルを隣に座らせると、甲板をぐるりと見回してから、もう一度声を張り上げた。

「リルの活躍に──乾盃!」

その声に呼応するようにわっと上がった歓声の中で、リルも満ち足りた気持ちで盃を呷った。──夕闇の中で、海賊たちの陽気な宴は続いてゆく。

+++

──翌朝。
鍛錬を済ませ、賑やかに朝食を摂った後。今日の掃除は測量室にしよう、とリルの向かったドアの先には、既に先客がいた。

「ジェンさんと...ベックさんにシャンクスも?」
「ああ、リル。今日の掃除は此処か?」
「え、うん。ジェンさんはともかく、2人が此処にいるなんて珍しいね?」

聞けば、次の航路について話し合いをしていたらしい。見れば、確かに机の上には地図が広げられ、記録指針ログポースが置かれている。リルは話し合いの邪魔になっては、と立ち去ろうとしたのだが、三者三様に引き止められたのでシャンクスの隣に腰を下ろし、黙って話を聞いている。

「──で、どうする?お頭」

周辺の状況などを簡単に説明したあと、そう問われたシャンクスは少し考え込む。そして、いいことを思いついた、と少年のような顔をして言った。

「ルフィにリルを紹介しよう!いいだろ、ベック、ジェン」
「あァ、そうだな。あいつは羨ましがるだろうが」
「フーシャ村か...ああ、航路に問題はなさそうだ。あとはコックに補給が必要か相談するくらいか」
「フーシャ村...紹介?ルフィって?」
「次に行く島にある村でな、俺たちが拠点にしてるうちのひとつなんだ。ルフィはそこの子供なんだが、お頭や俺たちに懐いててな。村に行くたびに仲間にしてくれって言ってな...」

中々に根気のあるガキでな、と言いつつもその表情は穏やかだった。3人とも、その子を憎からず思っているのだろう。

「フーシャ村のルフィくんか...」

海賊になりたいのだというその少年の姿を思い描いて、リルも小さく微笑んだ。
半月とロンド
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