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銃声、怒号、悲鳴。シャンクスとベックマン、そしてリルの3人による攻撃によって、庁舎はすっかり混乱に陥っていた。言うまでもなく、市長を守らんとする自警団は防戦一方で逃げ回っている。戦闘は(主に自警団の逃走が原因で)拡大し、庁舎前の広場で交戦中であり、その騒ぎを聞きつけて市民たちも遠巻きに、或いは窓の向こうからこの様子を見守っている。

「うぎゃっ、し、市長、まずいです!」
「...仕方がない、もうあいつらをこの場に呼ぶしか、」

リルの放った蹴りを食らって悲鳴を上げた自警団のひとりの言葉を受けて、数人を引き連れて広場の端の方に陣取っていた市長は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると懐から電伝虫を取り出した。

「まさか...っ本気ですか!?あのことがバレては、」
「黙ってろ!それとも、この状況をどうにか出来るのか!?」
「そんなことを言われましても、」
「もう我々はこうする・・・・しかないんだ!...全員連れて今すぐ庁舎前に来い!!」

市長は懐から電伝虫を取り出すと、部下や秘書の反駁も無視して大声で電波の向こうの相手に命令を叫んだ。それを聞きつけた市民たちは、市長が援軍を呼んだのだと思い安堵のため息を零す。...10分も経たないうちに、彼らは今度は驚愕の声を上げることになるのだったが。

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「そういえば、リル。さっき、何かまだすることが残っているような言い方だったが?」

自警団のひとりが悔し紛れに撃った銃弾を難無く交わしながら、不意にシャンクスがリルに問いかける。

「さっき?」
「俺の名前を呼ぶ前に。もう、って言っただろう?」
「ああ、...よく聞こえたね、あれ。そんなに大きな声で言ったつもりはなかったんだけど...ちょっと、不正があったからね」

今度は飛びかかってきたひとりに蹴りを入れて、リルが頷いた。

「不正?」
「そう。薄々気づいてるかもしれないけど...あの市長、昨日のチンピラと結託してるんだ」
「あァ、それなら知ってる。俺が締め上げてきた奴じゃねェか?」
「俺が締めたのは確か運び屋だったか…」
「え、二人ともそんなことして来たの...まあそれでね、あっさり捕まったのも癪だったからどうせならその不正も暴露して脱獄しようかなあ、と思ってたんだけど」
「...そんなことするつもりだったのか、リル」

二人にあっさりと頷かれたことに拍子抜けして、簡単に目的を説明する。すると揃って微妙な顔をされて、心当たりのないリルは小さく首を傾げた。

「それで?逆接で終わっているということは、気が変わりでもしたのか」
「ううん、そういうわけじゃないんだけど...二人のこともあるし、あの分だとうっかり自爆してくれそうな気がして」
「それもそうだな。時間の問題だろう」

おろおろと情けなく慌てている市長の姿にリルとベックマンは小さく笑みを浮かべる。その様子を見たシャンクスは、お前ら策士だなァ、と呆れまじりに呟いたのだった。


「...二人とも、あれ」

──数分後。飽きもせずに向かってくる自警団の面々を適当に遇いつつ、リルは不意に一点を指した。見ると、自警団に囲まれた市長とチンピラが何やら言い争っている。
「...始まったね」、リルは薄らと笑みを浮かべてそう言った。


「この件からは手を引くだと!?これまでの話と違うだろう!」

場面は変わって市長たちの陣取る広場の隅の一角では、案の定口論が起きていた。青い顔をしたチンピラのリーダー格の男の一言に、市長は思わず人目も忘れて大声で相手を怒鳴りつけた。

「ここに来て今更離反するなど...いいか、そんなことをしたらお前達のこれまでの報酬もゼロにするぞ!」
「何だと!?」

市長の言葉に今度はチンピラ達が顔色を変える番だった。「おいおい市長さんよ、それこそ話が違うんじゃねぇか!?」言いながら男はそのまま市長の胸倉を掴みあげる。青い顔をした市長は喉からヒイッと情けない悲鳴を漏らした。「...おい、あれどうなってるんだ」「なんで...市長があいつらとあんな風に話し込んでるんだ...?」「いつもみたいに自警団の人たちと助けてくれるんじゃないの?」恐怖に顔を引き攣らせた市長の姿に、建物の陰やカーテンの隙間からこっそりと成り行きを見守っていた市民たちの間からは次第に疑問の声が漏れ始める。

「まずい...ッおい、」

ようやく周囲の状況に気がついた市長は声に焦りを滲ませるが、チンピラはその抗議を意にも介さず声を張り上げて爆弾発言を投下した。

「そうだよ!よく聞け市民ども、お前らが今まで市長と呼んでいたコイツはな、これまでずっと俺たちと共謀してたんだぜ!!」
「!?」

チンピラの放った苦し紛れのその一言に、周囲は途端にざわめき立った。「どういうことだ」「ちょっと!今のは本当なの!?」「嘘でしょ...最悪じゃん」「信じられない!どういうつもりだ!?」驚愕の声は次第に怒りの色を帯びてゆき、5分もしないうちに広場は市民たちの怒りの声に満ちた。その様子を黙って眺めていたリルは、呆れたように肩を竦めてあーあ、と呟くと、素早い身のこなしで庁舎の屋根に飛び移る。そしてどこからか電伝虫を取り出すと、高らかに宣言した。

「はーい、注目!」
「!?」

困惑の色をはらんだ視線がリルに突き刺さる。それをものともせずに、リルは言葉を続けた。

「よし、じゃあそこの...青い帽子のお兄さん、電伝虫これをそっちに投げるから、しっかり受け取ってね」

え、と指名に驚いた青年が慌てて電伝虫を受け止めたのを確認すると、リルは更に言葉を続けた。

電伝虫それで海軍に連絡するといいよ。...但し、幾つか条件があるけどね」

連絡はレッド・フォース号が安全に出港したことを確認した後にすること。そして、海軍には決して自分たちがこの島に立ち寄り、自警団たちと交戦したことを告げないこと。リルが出した条件は、その2つだった。

「──わかりました」

青年が神妙に頷いたことを確認すると、リルは下で待っていたシャンクスたちのもとに戻り、笑顔を浮かべて言った。

「お待たせ」
「あァ、リル、よくやった。──よし、船に戻るぞ。出航だ!」

シャンクスはそう言うとぽん、と軽くリルの頭を撫でて、レッド・フォース号の停泊している港へと歩いて行く。ベックマンも軽くリルの肩を叩いて労うと、船長の後に続いた。リルはその背を追いながら、少しだけ誇らしげな気持ちを胸の裡に感じたのだった。
かみさまの縁取り

レイアウト若干修正(03. 06)

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