ガチャリとドアの開く音がして、薄らいでいた意識が緩やかに覚醒する。

「お前、目が覚めたんだな」

低くて、何処と無く艶のある声だった。そっと視線を上げると、すらりとした男性が立っているのが目に入った。少し怖そうだけど、とても整った顔立ちをしている。毛皮の帽子を被り、ベポくんのツナギと同じマークがプリントされたパーカーを纏っている。そして、とても長い刀を肩に担いでいた。スタイルも良いので、まるでモデルのようだった。

「えーっと...、船長さん、ですか」
「あァ。...お前、名前は」

怖々尋ねるとそう聞き返された。それにしても目の下の隈がひどい。寝不足なんだろうか。

「東雲紫音です。危ないところを助けて頂き、ありがとうございました。ベポくんから簡単には説明して貰ったんですが、わたしはどういう状態だったんですか?」
「過度な発汗と水分不足で脱水症状を起こしていた。あのまま放置していれば熱中症になっていただろうな」

少し気になって自分の症状を尋ねると、若干呆れたような声でそう返された。どうしたらあんなことになるんだ、とでも言いたげだ。正直わたしにも何であそこまで体温が上がったのか分からないのだけど。

「あー...そうですか、それはご迷惑をお掛けしました。ところで、幾つかお聞きしたいことがあるんですが、質問いいですか」
「俺の答えられる範囲内なら答えてやるよ。但し、こっちからも幾つか質問させてもらうがな」

船長さんの瞳がひたとわたしを見据える。

「わたしにお答えできることなら何なりと。...では早速ですが、船長さんのお名前を伺ってもいいですか」
「...お前、俺を知らないのか」

わたしの質問に、船長さんは少し驚いたような顔をした。...そんな有名人なんだろうか。内心首を傾げていると、船長さんはまあいい、と首を振って話を続けた。

「俺の名前はトラファルガー・ロー。ハートの海賊団の船長をしている」

なるほど。知らない名前だけど、...え、待って、

「...海賊?」
「...まさか、海賊を知らねェわけじゃないだろうな」

え、…存じ上げませんけど、…わたしの困惑が表情に表れていたのだろう、船長さん...トラファルガーさんは、やれやれ、とばかりに額に手を当てた。


「お前は一体、何処から来たんだ?」

:

長い話になりますけど、と前置いて、わたしはここに至るまでの経緯を簡単に説明した。物凄く苦い果物を食べたところまで話し終えると、トラファルガーさんは驚いたようにわたしを見つめた。

「変な渦巻き模様があったんだな?」

わたしはこくりと頷く。

「レモンのような香りがしたと言ったな?...その癖、かなり苦かったと」
「...はい」

あれは今まで食べた果物の中で一番不味かった、そう思いながらまた首肯すると、トラファルガーさんはやれやれ、と言わんばかりにため息を吐いた。

「...それは十中八九悪魔の実だ。昔聞いたことがある」

──サンサンの実。トラファルガーさんによると、それがわたしの食べたあの果物の名前らしい。悪魔の実?というのが何なのか、あまりよく分かっていないのだが、何でも食べれば能力を得られる不思議な果物だという。...初めて会ったときのベポくんの言葉にあった"アクマノミ"ってたぶんこのことなんだろう。わたしの食べた"サンサンの実"は熱を司る能力のようで、トラファルガーさん曰く、体温が上昇して熱中症になりかけていたのは、能力の影響を上手くコントロール出来ず自身が発熱してしまったからなんだとか。そこまで説明されて、一気に色々なことを詰め込みすぎて脳味噌がパンクしそうになりつつも、成程、と彼の言葉に頷いた。

「解熱剤だ、飲んどけ。病人は大人しく寝てろ」

情報量の多さに困惑していたのが分かったのだろう、白い錠剤と水の入ったコップをサイドテーブルに置き、トラファルガーさんは部屋を出ていった。言われるままに薬を服用し、与えられた情報を整理する間もなくわたしは眠りに落ちたのだった。

「...キャプテン、やけに機嫌が良いですね?」
「あァ、...面白ぇ奴を拾ったかもしれねェな」

──静かに閉められたドアの向こうで、こんな会話が交わされていたことも露知らず。

きっとはじまりの音に
気づいていた

レイアウト若干修正(03. 07)
本文加筆・修正(17.03.30)



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