「...ねえ、大丈夫?」

あまりの苦味に悶絶していると、不意に目の前の地面に影が落ちた。何だろうと顔を上げると、そこには白いもふもふがあった。...否、1頭の白クマが立っていた。

「...白クマが喋った...!!」

あまりの感動に思わずそう呟く。しかもよく見ると彼(暫定)はオレンジのツナギを着ていた。胸のところには何かマークが入っていた。

「白クマですみません...」
「あ、いや、違うよ!びっくりしただけ!むしろ、喋れるなんてすごいよ。もっと誇っていいよ!」

驚いて思わず呟くと、とたんに白クマくんはしゅんと項垂れてしまい、苦味も忘れて慌ててフォローする。可愛い子(白クマだけど)が悲しい顔をしているのは見ていられないもの。汗を拭って笑顔を作ると、白クマくんはほっとしたように微笑んだ。

「俺のことそんな風に言ってくれたの初めてだ...!」

うん、可愛い。そう言った彼(確定)は文句無しに可愛らしかった。

「わたしは別に大丈夫だよ、ちょっと暑さとこれの苦さに参ってただけ」
「本当だ、ねえ、すごい汗だよ!?本当に大丈夫?...っていうかそれ...悪魔の実じゃないの!?」

その言葉に我に返ったわたしは、座り込んでいたわたしの様子を心配そうに見遣る白クマくんを安心させようと、隣に転がる果実(?)を指して苦笑しながらどうにか立ち上がろうと凭れ掛かっていた木に手を掛ける。...アクマノミ?って何のことだろう。

「そうだ、白クマくん。水とか持ってる?良かったら少し、」

──分けて貰えると嬉しいんだけど。
そう言いながら立ち上がろうとした瞬間、視界がぐらりと揺れる。何が起きたのかもわからないまま、わたしの意識はあっさりと暗転したのだった。

...目を覚ますと、今度は砂浜ではなく普通のベッドに寝ていた。もしかすると、さっきまでのことは全部夢だったのかもしれない。...うん、それなら無人島(多分)に1人だったのも、レモンみたいな果物が物凄く苦かったのも、そして白クマが喋っていたことにも説明がつく。...そうか、夢だったのか。思い返してみれば結構面白い夢だったなあと思いながら重い瞼を押し上げる。そして、わたしは本日2回目となるこの台詞を口にすることになったのだった。

「...ここ、何処だ...?」

:

「あ、目が覚めたんだね!」

わたしの零した小さな呟きに、嬉しそうな声が返ってきた。...あれ、この声聞き覚えがあるぞ。

「...白クマくん?」
「そうだよ!俺はベポっていうんだ。君は?」

思いついた相手の名を呼ぶと、白クマ、もといベポくんはこれまた嬉しそうに答えてくれた。

「わたしは紫音っていうんだけど...少し、聞いてもいいかな?」

いいよ、と快く頷いてくれたベポくんにあれこれと尋ねて、取り敢えず、ここは船の中だということ、キャプテンさん(?)があのまま倒れたわたしを助けてくれたのだということが分かった。船の中ってことは海の上?キャプテンって船長さんってことだろうか。少し考え込んでいると、ベポくんが立ち上がった。

「紫音が目を覚ましたって、キャプテンに知らせてくるね!」

ここにいてね、と言い残してベポくんは部屋を立ち去る。ベポくんは可愛いな、と呑気に考えながら、わたしはその言葉に大人しく頷いたのだった。

目覚めたはずの夢をみて

レイアウト若干修正(03. 07)
本文加筆・修正(17.03.30)



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