3



「真琴…?」


ほんのりと紅潮した頬に若干潤んだ瞳で、クレスの腰に手を回して後ろから抱きつく真琴に視線を向ける。

真琴は名前を呼ばれても曖昧な返事を繰り返し、瞼が今にも落ちそうだった。
それに気付いたクレスは、腕を掴んで体を支えるようにして自分の前に持ってくると、視線を真琴に合わせる。


「なんだ、眠い…のか?」
「……ん」


小さくゆっくりと頷く。
それに対して微笑を零すと、膝裏へ腕を回してそのまま抱き上げるとソファの上に座らせた。


「酔ったんだろうな…、真琴はここで寝ろ、いいな?」
「うん…、ありがと…」


真琴は今まで見たことのないような、満面の笑みを浮かべる。真琴は頷きながらそう言うと、間も無く規則正しい寝息が聞こえてきた。
眠ったのを確認すると、小さく溜息を吐き出す。


(あんな風に…、笑えんのか…)


僅かに頬が熱くなったような感じがして、忘れるように頭を振る。
まだ残りの二人が居るんだと思い、恐る恐る振り返る。


「お前も…寝れば?」
「なんで?」

一人掛けのソファに足を組んで座る。何時もの彼ならばこんな座り方もしない。座り方どころか、話し方も目つきも変わったように思える。



「僕に命令したいのなら、跪いて乞えばいい」



悪戯めいた笑みを浮かべて、そう言う彼はアレル。
どうやらお酒を飲むと性格が正反対になってしまう事が"たまに"あるらしい。大体そうなるのは度数の高い物を一気に飲んだか、元上司のエルネットが愛飲している酒を飲んだ時かの二択。今は勿論後者だった。


また溜息を吐き出し、アレルへと近付くと手を差し出す。


「ほら、掴まれ。酔い覚めねえと帰れないだろ」
「……」


大人しく、素直に手を掴んだ。
そう思った瞬間に、急に視界が早く回る。気付いた時には立ち位置が逆になっており、ソファにクレスは座っていた。
衝撃からソファとは言え腰をぶつけたらしく、腰を摩っていた。


「ねぇ、僕に何するつもりだったの?」
「何って…、だからエルネットの口車に乗せられて酒飲んだんだから、帰る迄に酔い覚めねえと…」
「そうじゃない。僕と対等に…、話するつもりだった?寝かせようとした?」


若干会話が出来ないのも仕方がない事だった。
綺麗な青緑色の瞳がじっと見つめる。不意に視線を反らせ顔の向きすら変えた。


「………」


細くて長い指がクレスの顎先を捉え、半ば無理矢理視線を合わせさせる。また悪戯めいた笑みを浮かべ、もう片方の手でそっと頬をなぞる。


「言いたい事があるなら、言いなよ。僕はちゃんと聞いてあげる」







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