You are a cruel man

どんどん冷たくなっていく体を、助けようと思えば助けることはできたのだ。
もし彼がそう望みさえしたならば。




遠い昔から、彼が誰の為に生きているのかくらい心得ていた。

強く気高く美しき、あの凛とした花の名と緑の目を持つ女性のため。
たったひとつ彼女がこの世に遺したもののため。
白き賢者との約束のため。
あるいは彼自身の罪への贖いのため。

知っていたさ、そんなこと。最期の最後まで君がそのことしか考えていないだろうことくらい。―――私のことなど考えていないということくらい。

銀色の雫を受け取って立ち去った愛し子を見送ってから、やっと彼の傍へ駆け寄った。力無く倒れている真っ黒な肢体のその横にひざまづき、焦れるようにして懐から取り出した小瓶の蓋を取り去る。

「セブルス」

彼は微かに瞼を震わせた。

「ああ、いいよ、目は開かないでいい」

私はあの色を、あの美しい緑を持っていないから。最後に見る記憶くらい―――私は最後にしてしまうつもりはないけれど―――明るくて美しいものがいい。君の人生はそう明るいものではなかったから。例えリリーへの愛という一筋の光がずっと君の心に差して続けていたのだとしても。

スネイプは私の言葉に安堵したように体の力を抜いた。あるいはそれは落胆によるものだったのかもしれない。私には確認のしようもないことだった。

「セブルス、解毒薬だ。………こんなこともあろうかと、持っていたんだ」

死の呪いでなくて本当に良かった、そう呟くナマエの震える腕を、彼は静かに制止した。

「………セブルス?」

ナマエはくしゃりと顔を歪めた。

本当は、ずっと分かっていた。
役目を終えたなら、彼がそれ以上の生を望むことなどきっと無いのだろうと。
彼は何も言わなかったけれど、ナマエには彼が何を望んでいるのかがはっきりと分かった。痛いほど。

「いやだ、いやだよ、セブルス」

「………ナマエ、」

囁くようにして彼は呟き、懇願した。懇願したいのはこっちだ。

「ナマエ、……頼む、」

ああ、彼は知っているのだろうか。そんな風に言われたら―――そんな風に言われなくとも、彼の言うことならば、彼が心から望むことならば、ナマエがそれに逆らえる訳がないということ。

知っていて、言っているのだとしたら。

「ナマエ、」

何て残酷なのだろう。

あまりにも小さな小さな声。いっそ聞こえなかったことにしてしまおうかとナマエは思った。
聞こえなかったふりをして、それで。

ナマエは小瓶をぎゅっと握りしめて、目を閉じた。いつでも思い浮かぶ彼女の顔。きっと同じように彼の脳裏にはただ一人の女性の顔が浮かんでいることだろう。目を開けて、彼の黒い瞳を真っ正面から見詰める。

「分かった」

ともすればこぼれ落ちそうになる涙をどうにか堪えながら、ナマエは呟いた。

「分かった、分かったよ。君がそう望むなら」

今度こそ彼はその顔に安堵の表情を浮かべた。

「長い間お疲れ様。君はよくやった。本当によくやったよ。安らかにお眠り、愛しい子」

笑えているかどうかは分からなかったけれど、それでも口角を持ち上げて、彼が嫌いではないと言ってくれた微笑でもって、ナマエは彼を見取った。

「………おやすみ、セブルス」

どうか夢の中では安らかに。君はあまりにも酷な人生を歩んできたと思うから。

「あいしているよ」

溜め息のようにこぼした言葉を聞いた彼が、最後に微笑んでくれたことだけが、ナマエにとっての唯一の救いだった。

そして彼は、ナマエの腕の中で眠りに就いた。

You are a cruel man
(君は非道い男だ)




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