ワンピース

「さーて、今度はどんなとこかなー……って、」

 突然目の前に現れた蛇のような竜のようなビジュアルの生物に、ナマエは慌てて蹴りを入れて離れた。

「………こんなビジュアルの生物がいそうなのは………まさか、」

 真っ青な海、真っ白な砂浜、巨大かつ個性的な海の生物たち。ここがどこか何となく分かってしまったナマエは、げんなりとした。



「おっ、ナマエさんじゃねーか」
「…おいシャンクス、海軍の前でそう知り合いみたいな台詞はやめろ」
「とかって返事してる時点で手遅れじゃねーか?」
「………あーもう、責任とれよ!」
「おう!」

 満面の笑みで答えたシャンクスは、たぶん確信犯だ。
 たまたま訪れた島での海軍と海賊のドンパチに巻き込まれただけの哀れな一般人(自称)であるナマエは、深いため息をついたのだった。

「……おいお頭、こいつ、まさか」
「ああそうだよ。伝説の”不老不死のナマエ”だ」
「「「ええええええー!?」」」

 声をそろえて驚いたクルーたちに、「シャンクスの仲間は息ぴったりだなあ」とナマエはのほほんと呟くのだった。



「で、こんな得体の知れない野郎と」
「ナマエさんは野郎じゃねーぞー」
「………得体の知れない女と、何で知り合いなんだ?」

 ヤソップは発言を訂正しながら、何だか頭が痛いような気がしてきた。どう見ても男だろ!と騒ぐ周りは無視することにする。

「ロジャー船長の古い知り合いらしいぞ」
「…じゃあやっぱり不老不死ってのは本当なのか」
「巨人族の中でもナマエより年上の奴はいないらしいしな」
「まじか……」

 何やら盛り上がっている幹部連中に、ナマエは控えめに声をかけた。

「不死は訂正してくれ。たぶん死なないわけじゃないし。あと、女性の年齢について詮索すんのは感心しないぞ?」
「お、おう……」



「あ、ベックマン」
「…」
「で、あってるよな?」
「おれの名前はベン・ベックマンだが…名前を覚えられるようなことをした覚えはないが?」
「ああ、タイプだったもんで。覚えてたんだ」

 その会話を聞いた周囲のクルーたちは一斉にニヤニヤと笑った。ナマエの性別について話していた時、ベックマンはちょうど船室の中に行っていた。男に迫られて副船長は一体どう反応するのか、と息を潜めて様子を窺う。

 ベックマンは、そんな周囲の様子をそっと観察した後、ナマエの腰に手を回して引き寄せた。

「………そりゃ光栄なこった。冗談でないならな。一晩願いたいくらいだぜ」

 意外すぎる反応に、周囲は耳を疑った。ついでに目も疑った。
 ナマエも、思わぬ答えに目を丸くする。

「……いいのか?お仲間にホモ疑惑かけられるぞ?」
「女に恥をかかせるわけにもいかんだろ」
「…気づいてたのか。いや、聞こえてたのか?」
「触れりゃ分かる」
「ああ、それで抱き寄せたのか……」

 からかうつもりが反撃にあって、流石のナマエも動揺した。

「……仲間への意趣返しならもう十分だろ?離してくれ」

 厚い胸板を押しやるが、ナマエの力ではびくともしない。熱い抱擁を交わす二人に、周囲のクルーが青ざめていくのが見えた。まさか副船長は本当にホモなのか、いやいやおれらをからかってるに違いない、いやでもあの人がそんなことするキャラか。などなど。

「悪かったよ。からかうつもりはなかったんだ」

 からかわれて気を悪くしたのかと思って謝ると、ベックマンはにぃっと笑った。高身長と人相の悪い顔とがあいまって、かなりの凶悪さだ。

「謝る必要はないさ、お互い様だしな」

 そう言ってあっさりと離れた体に、ナマエは思わず感嘆した。年を取りすぎてしまったせいか、どうも若者を若造扱いしてしまいがちだったが、なるほど油断はできないらしい。だが、ここで年長者を舐められてもらっては困る。

 あっさりと踵を返して離れていくベックマンの背に、ナマエは声をかけた。

「さっきの、冗談じゃないからな」

 ふりむいたベックマンは目を細めて、ナマエの本心を探ろうとした。
 だがナマエとてここで簡単に腹の内を読ませるつもりはない。にっこりと笑って見せると、ベックマンもやれやれと肩をすくめた。

「くえねぇやつだな。冗談にしておいてくれ。アンタと腹の探り合いなんて、疲れそうでかなわない」
「つれないこと言うなよ」

 してやったり。ナマエは笑みを深めた。




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