守り 人シリーズ
「ジグロ、お前な、いくら何でももうちょっとバルサの性別について考えろよ」
「………どのみち普通の娘としては生きられん」
「もっと根本的なことだよ」
ぶつぶつと小言を言うナマエに、ジグロはそっと顔を背けた。本当にこういうことに関しては不器用な男だ。
「ナマエさん…あの、私なら別に…」
「いーや、今日という今日は言わせてもらう。お前はあんまりにも女の扱いがなってない!」
びしりと言い切ったナマエに、バルサは複雑な表情をしながら、今日の昼のことを思い出していた。
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『ん?バルサ、足を怪我したのか?』
『いや…その、』
ジグロとの手合わせの途中、急に腹部に痛みを感じて逃げてきたバルサは、ジグロが追ってこないかと周囲の気配を気にしながらそっと告げた。
『……股の間から血が出て……』
そう言った時のナマエの表情は、そんな場合では無かったのだが、とても見ものだった。
その後だ。容赦なく追いかけてきて本気の手合わせの続きをしようとしたジグロにナマエが説教を始めたのは。
バルサとて知識として知らなかったわけではなく、単にそんな理由で手合わせを中断するのも躊躇われただけだったのだが、思いのほかナマエの怒りは深かった。
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「お前がもう少し女慣れしてたらよかったんだがな。折角女にもてまくってたくせに全く相手にしてこなかったのが悪いんだぞ」
「………だったらお前が手ほどきすればいいだろう。おれよりよほどお前の方がそういうのには詳しい」
「………とにかく、しばらくバルサは預かるからな」
「…好きにしろ」
諦めたようにジグロが吐き捨てたのが説教終了の合図だった。「よし」とナマエも息をついて、バルサの方ににこやかな笑顔を向けた。養父にあんな顔をさせられる人間を、バルサはナマエの他に知らない。思わず肩をびくりと揺らすと、安心させるように背を撫でられた。
「それじゃあ、行こうか、バルサ。いい温泉が湧いているのを見つけたんだ。一緒に入ろう」
「えっ……」
男だとか女だとか考えたことはあまりないのだが、流石に月のものが始まるような年齢になったのに、異性と風呂に入るのはまずいのでは…。
バルサがそう考えたのを読み取ったかのように、ナマエは苦笑した。
「言ったことなかったけど、やっぱり男と思ってたのかい?私は女だよ」
「……………え?」
情けないことに、バルサはそんな間抜けな声を漏らすことしかできなかった。
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よくよく考えてみれば、ナマエの周囲には若い女性が少ない。ナマエが若いのかどうかは定かではないが、すくなくともトロガイのようにしわくちゃの老婆というわけではない。
二人して裸になって風呂に入りながら、バルサはこっそりナマエの方をうかがっていた。
バルサが言えたことではないが、その体にはいくつもの傷跡がついている。中には拷問の跡のようなものもあって、バルサは顔を曇らせた。
「気持ちいいかい?」
「うん。…なあ、ナマエさん、それ……」
「ん?ああ、これか……誰につけられたんだっけな。ヴォルデモートだったか、サカズキだったか、…まあ、もう痛くもないし。バルサがそんな顔をすることはないさ」
彼、いや、彼女も、相当の修羅場をくぐってきたのだろうな。バルサはナマエの過去に思いをはせた。ジグロとは知り合いのようだが、いつの間にかたまに現れては旅を共にするようになった女性(最近まで男と思っていたが)には、謎が多い。