鋼 の錬金 術士

「不老不死?こんな男が?」
「こんな男とは失礼だな、ホーエンハイム。だがまあ不老不死の方は否定しておく。だから早いとこここから出してくれないか?」
「……王の命令だ。不老不死の手がかりかもしれんお前を自由にはできない」

 すっかり王の信用を得て働いているホーエンハイムに、ナマエは苦笑した。

「ま、お前とは長い付き合いになりそうだしな。ゆっくり行こうか」
「どういう意味だ…?」

 その時は分からなかったその言葉をホーエンハイムが理解したのは、不本意にも不老不死の命を手に入れてしまってから、随分後になってのことだった。
 ナマエが不老不死というのは、やはり本当のことだったのだ。

「んーまあ、不老はひていできないけど、不死ではないぞ。そもそも不死なんて証明しようがないんだし」
「………何でお前は、そんなに楽観的でいられるんだ」
「ははは。そう見えるかい?…まぁ、最初に一番どん底まで落ちたからな。今さら怖いものなんてないよ」

 自分で自分を殺そうとする、というのは、ある意味で本当に他に比べようがないほど最低の行為だ。それをしてしまった後はもう大抵のことは怖くない。
 結局自分が死んだのか死んでいないのかも、ナマエには分からないのだから。

「…でも、大丈夫。お前は幸せになれるよ。きっと美人の奥さんを見つけて、元気な息子も二人くらい作って、立派に戦って、きっと幸せになる」
「………何だそれ。妄想の話か?」
「違うって」

 その言葉も本当だと知るのは、もっとずっと後のこと。


***


「あっはっは!」
「笑いごとじゃねぇよ!俺のときめき返せってんだー!」
「切羽詰まりすぎだろ、ハボック!そんなに恋人がほしいかよ!」

 ある日のこと。盛大に周囲にからかわれているハボックと、その横で微妙な顔をしながら苦笑しているナマエに、マスタングは眉を顰めた。

「何の騒ぎだ」
「あ、大佐。…いえいえ、何でもね、昨日の夜……」

 話を聞くところによると、昨日の夜たまたま女装していたナマエをバーで見かけたハボックが、それをナマエの女装と気付かずに、二時間口説いたあげく酔いつぶれてナマエの自宅のアパートで介抱されたとのこと。

「バカでしょこいつ。大佐も何か言ってやってくださいよ」
「だって気付くわけねーだろ?女装があんなにクオリティ高いとか詐欺だっつの!朝目覚めて横にナマエが居た時のおれの絶望!まじありえない!」

 ナマエの本当の性別を知るマスタングは、何とも言えない顔をしているナマエと同じ表情になった。
 何を隠そう、マスタングも同じ愚を犯したことがあるのだ。しかもその時は酔いによってナマエを脱がせてしまい、それで気付いたのだが。

「……君、いい加減本当のことを言ったらどうなんだね」

 たえかねてこそっとナマエに囁くと、ナマエは溜め息をついた。

「私は自分が男だなんて一言も言ってません。大体女だって言ったって、裸見ない限り信じないでしょーが。あんたみたいに」
「………あれは、すまなかったと思っている」
「別に今更気にしてませんけど。それに私が女だって知られたら困るのは大佐なんじゃないですか?面倒だからっていつも同室にしてるの、ばれたらリザが黙ってないと思うけどな」
「………」

 大佐の秘書というか雑用というような位置に就いているナマエは、出張の時何かと大佐と同室にされることが多い。今までは同性だし経費の削減にもなるから、と目をつぶられてきたが、もしもばれたら……

「うむ、それは残念だったな、ハボック。まあこれに懲りたら君ももっと女性を見る目を養いたまえ」

 誤魔化すように咳払いしたマスタングを見て、ナマエは再び苦笑したのだった。




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