カリフォルニア
「 Hello, Rei! 」
「 Hello, って、ナマエでしたか」
からんころん、と、レトロな鈴が鳴った。ドアを閉めたナマエは、にっと笑っていつもの席へ座った。
「ご注文は?」
「ハムサンドとアイスコーヒー!」
「相変わらずお好きですね」
「だって日本人の好みドンピシャな味なんだもの。もう他所のハムサンドは食べられない」
「それはそれは。光栄です」
約束の通り、レイはナマエに店の場所を教えてくれた。開店準備が始まる前の店はがらんどうで、ペンキも塗りかけ、外装は剥げていた。あれから一年、ナマエも準備を手伝った店は小ぢんまりとしていながらもそれなりに人気のカフェになっていた。
「シュウは?」
「買い物です。それより折角の夏休みなのに毎日ここへ通っていいんですか?」
「冒険は去年の夏したもの。それに来週は友だちの家でバーベキューだよ」
「へえ。進歩しましたね。あんまり毎日来るから友だちがいないんじゃないかとシュウと二人で心配してたんですよ」
レイのナマエへの態度は随分気安くなっていた。逆もまた同じく。ここ一年での変化である。
そしてもうひとつ変わったこと。レイの薬指には、from S to R と刻まれたシンプルなシルバーのリングが嵌っていた。
隠し事はきっと、まだある。けれどナマエはこの二人がとても好きだった。
「レイのハムサンドもおいしいけど、シュウのカレーも好き」
「あれも日本人向けですからね」
だから、今日もナマエは何も知らないふりをして笑うのだった。
「……いつまでも待ってるからね。」
「はい?今日はシュウはキッチンには回りませんよ?待っててもカレーは出ません」
「そうじゃないけど。まあ、楽しみにしてるね!」
「?何だかわかりませんけど、まあ、楽しみにしててください」
くすりとナマエは笑った。
…話してくれるのを、いつまでも待ってるからね。