The End of Great Journey
ごほっ
咳込んで目が覚めた。
「…………ああ、またあの夢か」
ははっと乾いた笑いが漏れる。
幸せな夢。そうなればいいと思っていた夢。きっとそうなると期待半分に描いていた、夢。
夢は夢だった。時が来れば覚めてしまうもの。
「レイ、シュウ、元気かな……」
夢みたいで、けれどあの時だけは確かに夢じゃなかった夏が過ぎ。
お別れも言えないまま秋が過ぎて、今は冬。
あの日。
カリフォルニアの一歩手前のモーテルに泊まった日だ。レイとシュウを二人きりにしてあげようと、ナマエが岩陰で寝袋にくるまって一人眠った日。
消えるな、とナマエに言ったくせに、そう言ったシュウが消えた。レイと一緒に。翌日起きても迎えは来なくて、不思議に思ってモーテルを訪れると、二人は夜遅くにチェックアウトしたとのことだった。何か急用があったのかもしれないと思って、ホリデーサマーのぎりぎりまではそのモーテルがある町で過ごした。けれどそれから結局二人には一度も会えていない。手紙すらない。当然だ、何も教えていないし、何も教わっていない。レイがチェックインの時に書いていたアドレスをナマエはいじましく覚えていたけれど、それすらもでたらめだった。
二人は跡形もなく消えてしまった。
あれから、カリフォルニア中のゲイバーを回った。ゲイネイバフッズのカフェも。
けれど二人を見つけることはついにできなかった。
やっぱりあれは夢だったのかもしれない、とナマエは思うようになった。二人のカフェを訪れる夢だけでなく、クリストファー・ストリートで二人に会ったことすらも。
一人旅する寂しさに、ナマエが作り上げた妄想かもしれないとすら。
けれど、いつもなら使わないまま終わるマッチは開いていて、確かに二本なくなっている。
財布に残っているドル札も考えられないほど多い。
マウンテンバイクのタイヤは、ピッツバーグを出た後に換えた時のままほとんどすり減っていない。
ナマエの足はニューヨークへ着く直前よりも筋肉が落ちて柔くなった。
マンハッタンのカクテルの味も、オールド・パルのスモーキーなスコッチの香りも、ギムレットの色も、全部覚えている。一人じゃバーでカクテルなんて確実に飲まないのに?
確かに胸は軽くなったのに?ずっと抱えていたものをあの時吐き出した言葉は、一体誰に向けたものだった?
ずっとほしがっていた言葉をくれたのは誰だった?
ただの独り言か、妄想なのか?居もしない兄の言葉を幻聴で聞いたのか?
いつもそこまで考えては考えるのに疲れて思考を止めてしまう。
だからナマエはただ願う。
ただ、あの二人が元気で、幸福でありますようにと。
This is the end of great journey.
(To be continued...?)