星降る夜の静寂に
コロラドスプリングスを通り過ぎた後は、モニュメントバレーに立ち寄って、大地に突き刺さっているように見える巨大な岩山を観光した。写真は撮らなかった。二人と会ってからナマエは一度も写真を撮っていない。理由は特にない。撮ろうとしたら彼らが困った顔をしたから、というのは少しあるけれど。全部心の目に焼き付ければいいや、と思っている。もともと写真をパシャパシャ撮るのには抵抗があったので。
夕方を狙ってキャニオンへ。やはりキャニオンは夕方に限る。傾いていく太陽に照らし出されて刻々と様相を変えるのが美しい。ブライスキャニオン、レッドキャニオン、グランドキャニオン、と有名どころを見て回る。その日はからりと晴れていて、空とキャニオンのコントラストが本当に写真か何かのコマーシャルのように美しい風景だった。乾いた大気と埃っぽいざわめきだけが、これが現実だということをナマエに知らせる。
その頃にはもはや沈黙も苦にならなくなっていた。レイが時々喋る以外は、車内は心地よい沈黙に満ちていた。夏の終わりはまだ先だが、夏休みが終わってしまう時のようなくすぐったい寂しさみたいなものをナマエは持て余していた。
キャニオンの州・ユタを抜ければ、カリフォルニア。旅の最終目的地だ。
*
星降るような大地。フリーウェイ沿いのモーテルに車を停めたが、ナマエは折角だから外で寝たい、と、少し離れた岩陰で車を降りたので、久しぶりにレイとシュウは二人きりだった。
「…何も話さないのか?彼女に。」
「墓まで持っていく類の秘密というものはあるでしょう。僕にも、……あなたにも」
「……………」
彼女に対する秘密。それに関して言えばシュウとレイは間違いなく共犯者であったので。
彼が言わないと言うなら、シュウもそれを言うことはできない。
「…どちらがいいんだろうな。真実を知るのと、……いつまでも真実を知らず、ただ待ち続けるのと。」
「どこかで生きているかもしれない、…そう思う方がまだ希望が持てるってこともある」
「君がそのつもりなら、俺も何も言う気はない」
静かに言ったシュウに、レイは痛みをこらえる顔でうなだれた。
「……そんな言い方はないでしょう。僕が望むなら?…あなたは?」
「誤解するな。君一人に責任を負わせるつもりはない」
痛みをこらえるレイの手に、そっとシュウの手が添えられる。
「…今彼女はいないんですから、恋人のふりは要りませんよ」
「つれないな、ハニー」
冗談めかしたシュウの言葉に、レイはようやく弱々しく笑った。