サンジュアン・スカイライン

 日本人がやっている料理屋は、どれだけ探しても見つからなかった。情報が古かったのか、スタンドの親父が適当なことを言ったのかは分からない。代わりに、山に囲まれた小さな谷間の町にあったバーガーショップで食事をとることにした。

「バイソンバーガーって、本当にバイソンの肉なんですかね?」
「さあ。それよりレイ、オニオンスライスのトングをくれ」
「レイ、シュウ、ワカモーレ?って何ですか?」
「何でしたっけ。アボカドのペースト?」
「ああ」

 三人でわいわい言いながら、バンズに自分の好きなトッピングを盛りつけていく。日本のバーガーショップとは違ったスタイルだ。レイは野菜をたっぷり、シュウは野菜はオニオンスライスだけ、ナマエはいろいろ欲張ったトッピングになった。

「もっとトマトとか葉野菜も入れた方がいいですよ、シュウ」
「こういうバーガーは肉の味を楽しんだ方がうまい。野菜を摂れと言うなら別にサラダでも頼む」

 そんなやりとりをする二人はまるっきり夫婦のようなのに。ナマエは口回りにどうしてもくっつくワカモーレに苦戦しながら、こっそりレイとシュウを見ていた。家族の形を考えたことがないなんて、何か特別な職業なのか、あるいは実は偽装夫婦なのか。それとも子どもにこだわるナマエが形式にとらわれすぎているだけなのだろうか?

「ナマエ、ついているぞ」
「えっ、ああ。…………!!」

 口をとん、と示され、ナプキンを取ろうとしたら、その前にシュウにそれを拭われた。あまりに自然な仕草に反応が遅れたが、レイが呆れた顔をした。

「あなたねえ、それをうら若い女性にやるのはどうかと思いますよ」
「…ついボウヤにやる感覚で」
「ボウヤ?」
「あー………昔ちょっとな。…もういない子どもだ。」

 ただならぬ雰囲気に、それ以上聞くのはためらわれた。もしかして、どちらかがバツイチで子どもがいたが何らかの事情で手放してしまい、家族にトラウマがあるとか?
 話してもらえない以上想像するしかなく、ナマエの妄想は膨らむばかりだった。

 その日はそのままシルバートンとかいうその町で一泊した。観光客向けの宿泊施設は少々高額だったが、キングサイズのベッドに三人で寝ることができたので、部屋代は割り勘にしてもらった。…この二人と自分は一体どういう関係に見えているだろう、とナマエはふと思った。ゲイカップルとその養子?あるいは兄妹?年の離れた友人?
 まあ、別にどれだっていい。この関係の名称が何であろうと、この居心地のよさは変わらない。





 標高3000mまで登っていく道。平坦で乾いた砂漠とは正反対の、緑と豊かな水に溢れたロッキー山脈の景色。

「……ロッキーを越えたらカリフォルニアかぁ…」
「の前にキャニオンも一通り見ていくだろう?」
「でもあと二日ってところですよねー…」

 この旅ももう終わり。そう思うと何だか惜しい気がして、ナマエは窓の外の風光明媚な景色を見ながらため息を漏らした。コロラド川沿いを走るサンジュアン・スカイラインがこのままどこまでも続けばいいのに。



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