ホワイトサンズ・セミナショナルパーク

 ロズウェルでガラスケースに横たわる宇宙人を見た後は、ホワイトサンズ国定公園に向かった。と、ここでレイが少し気分が悪いと言ってシュウと運転を変わった。

「大丈夫ですか?」
「ただの二日酔いです…はは、でも、前より弱くなったかな」
「俺より飲んだからな」

 あの後やはりまだ飲んだらしい。大量に買い込んであった酒瓶は全て無くなっていたのだから想像もつくというものだ。というよりアルコールが抜けきらないうちに運転してもよかったのだろうか?

「二人でウイスキーのボトルを二、…三本、いやもっと…?」

 部屋に置いてあった酒瓶の本数を思い出そうとするナマエに、レイが死にそうな顔で苦笑した。合計で一体どれくらい飲んだのだろう。アメリカンウイスキーは750mlから760mlがスタンダードだそうだから、2リットル近くか。……すごい。

 運転席に座ったシュウは、車を発進させてしばらくすると、煙草を取り出した。だが火を点ける様子がない。

「ライター無いんですか?」
「…いや、オイルが少なくなっているのを忘れてた。節約だ」
「マッチありますよ」

 ナマエの荷物のうち、60リットルの大きなザックは自転車と一緒に車の屋根に縛り付けてもらっているが、マッチなら常に持ち歩いているデイパックに入っている。ナマエはごそごそとそれを取り出した。

「はい」
「…点けてくれ」
「ああ、………はい」

 運転は例によって例のごとくオートクルーズだ。ナマエの方を向いて少し顔を下げたシュウに、ナマエは少しどきっとしながら煙草の火を点けてやった。乾いた西部の風に、オールドファッションのクラシックカー、そして運転席と後部座席には俳優ばりのハンサムな男。何の映画だ、と一瞬思う。
 煙草に火が点くと、シュウは Thanks. と少し目を細めて笑った。

 思い返してみると、この旅自体、まるで映画みたいだった。始まりは薄暗いクリストファー・ストリートの片隅のバー。あと三十分で二十歳になる日本人の少女と、何の因果か日本人のゲイカップル。しかも目的地は同じ。アメリカ南部の観光名所という観光名所を回って、狭いモーテルで酒を飲みながらお互いの話をして。………いや、話をしたのはナマエだけだ。

「……シュウの職業、聞いてもいいですか?」
「言ってなかったか?…今はゲイバーのガード兼ウェイターだ」
「ウェイター?想像できない。…レイの店を一緒にやるんじゃないんですね」
「彼次第だな。同じ店で働くのを恥ずかしがるんだ」

 その言葉には、後ろでぐったりしていたレイが「勝手なこと言うなよ」と突っ込んだ。

「はは、レイって……かわいい」
「だろう?俺も最近気が付いた」
「そこはずっと前から知ってたっていうところじゃないんですか」
「そうか、失敗したな」
「ちょっと、あなたたちねぇ…」





 そんな風に話していると、前方に白い煙が舞い上がっているのが見え始めた。天気はいいのに一体何だろう、と思っていると。

「ホワイトサンズ、つまり白い砂。まあ厳密には石膏なんかに使われている硫酸カルシウムだが」
「えっ、えっ、うわー!すごい!」

 いきなり、目の前に小高い白い丘が現れた。まるで南の海の砂浜のように、真っ白な砂がどこまでも続いている。数分としないうちに目が痛くなるほど、真っ白な砂が真っ白な光を反射してきらきらと輝いている。

「うわあー!」
「今まででいちばんの反応だな」
「いや、ほんと、……うわあ」

 感動のあまり語彙力がなくなっているナマエに、シュウは少し笑ってサングラスを押し付けた。が、ずるりと鼻から滑り落ちる。

「ふっ、はははっ!」

 笑ったのは、後ろからついてきていたレイだった。

「ちょっ、笑うことないじゃないですか!日本人ですもん、鼻が低くて当然です!」
「いやでも…っ、ていうかシュウ、あなたも結構ナマエに懐きましたね。サングラス譲ってあげるなんてお優しいことで」
「何だ嫉妬かハニー?」
「違いますよダーリン。あなたにしては短期間で心を開いたと感心しているんです」
「おれがコミュ障みたいな言い方をするな」

 サングラスがずれたのを笑われて不貞腐れていたナマエだが、シュウの口からコミュ障という言葉が出て来たのが意外で面白くて、結局笑ってしまった。

「コミュ障って!あはは、それ誰に言われたんですか!」
「………」
「ふふっ、やっぱり誰かに言われたことあるんだ。いやまあちょっと私も初対面の時思いましたしね。こんな面白い人だと思わなかったけど!」
「はははっ、シュウがコミュ障!」

 結局レイとナマエは散々笑い転げ、ナマエはシュウに無言でサングラスを奪われる羽目になった。



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