それぞれの正体

 デリの方へ向かったナマエを見送り、シュウは後部座席でまだ横になったままのレイに声をかけた。

「降谷君。」

 濡らしてきたタオルを渡すと、彼は後部座席のシート側に顔を向いたままそれを受け取って顔を拭い、それからようやく体を起こした。思った通り、泣いた跡がある。

「スコッチの妹だと知っていて誘ったのか?」
「…見つけたのは、偶然です。公安に配属される前に一度だけ写真を見たことがあって。…よくナマエの話は聞いていました」
「俺も聞いたことがある。名前は流石に知らなかったが」
「というか、あんなに似ているんだ、気づかないほうがおかしい。…さいしょにみつけたときは、しんぞうがとまるかとおもった」

 また少し涙声になった。彼の泣き顔をこんな風に見ることができるなんて、一年前まで思ったこともなかったが。
 組織の壊滅から一年。残党の中でも大きな勢力を持つグループがカリフォルニアに潜入しているという話を聞いて、FBIと公安での合同の捜査が開始され、その陣頭として投入されたのが降谷零と赤井秀一だった。

「…目を冷やしたら下りてきてくれよ、ハニー」
「………くそ、スコッチの妹のためとはいえ、何で赤井とゲイカップルのふりなんか…」
「ああでも言わなきゃ警戒してついてこなかっただろう、彼女は。それに今回の敵のアジトはゲイタウンのど真ん中だ。どうせ遅かれ早かれこうなった」
「わかってる、いちいち言うな」
「…君、泣くと子どもっぽくてかわいくなるな」
「うるさい!」

 偽装の一環として恋人らしく目元の涙を拭ってやると、勢いよく足を繰り出された。どうやら元気は戻ったらしい。繰り出された蹴りをひょい、とかわしてシュウは車を離れた。彼のことだから数分もあればすっかりいつもの通りに戻るだろう。
 



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