ミーハーに楽しむ

 怪我の完治と同時に、山田太郎は杯土中央病院へ異動となり、ナマエもまた山田の親戚に引き取られた。何となく嫌な予感がしていたのだが、新しい山田家の住所は米花町であり、帝丹小学校の校区内であった。ちょうど工藤新一という何かと有名な少年が帝丹小学校を卒業した年のことだった。

「何のフラグだよもー…」

「あっはっは!いーじゃん楽しそうで!」

「楽しくない。ただでさえ二回も事件に巻き込まれてるってのに…私は平穏に生きたい」

「えーそう?でもやっぱキャラ見るのわくわくしない?」

 唯一の仲間とも言える太郎とナマエが仲良くなるのに理由は要らなかった。年齢がかなり離れた友人ではあったが。

「太郎はコナン読んでたの?」

「そりゃあもう。大ファンですよ。中二のロマンもろ入ってたもん。煙草とか酒とか車とかかっけーし。…ナマエは?」

「まあ…有名だから知ってはいるけど、そんなに詳しくは…」

「えーじゃあどの辺まで知ってる?」

「んー……なんか、新しい敵キャラ候補が三人出てきたところまでは」

「それってバーボンのこと?沖矢さんか安室さんか世羅さんかで焦らしてたやつ」

「たぶん…?」

「ほんっと曖昧だなー。しかもそれ結構前だし。ネタバレしていい?」

「ネタバレもなにも」

 ナマエは笑った。

「もう私たちはここにいるんだから」





 山田ナマエの体は生まれつき少し体が弱かったらしく、ちょうど太郎のいる病院に定期的に通院していた。検診の合間を縫って彼と話をするのはもはやルーチンとなっていたのだが。

「やばい!やっばいっっ!!!ナマエ!ナマエさんっ!」

「お、おお。どうしたの」

「いややべーよこれ!うわーおれもう死んでもいい!いや生きる!この興奮と感動と共に生き続ける!」

「落ち着け太郎」

 話を聞くことには、どうも、いちばん好きなキャラを見かけたらしかった。

「安室さんだよ。安室透。赤井秀一もいた!あともう一人たぶん…。」

「って誰だっけ?赤井秀一は分かるけど」

「え、安室さんわかんない?ほら、小五郎のおっちゃんに弟子入りした人だよ。金髪に肌黒い。おれのいちばん好きなキャラ!」

「あー。ガンダムネタで話題になってた人か。……ふーん、声くらいは聞いてみたいかもな。私アムロレイ好きなんだよね」

「ナマエ、ガンダムは詳しいの」

「詳しいってほどじゃないけど、コナンよりは。安室透よりはアムロレイと古谷徹の方が知ってるし。まあ、シャアと赤井さんならどっちもどっちだけど」

「うわー世代の差を感じるー。これがジェネレーションギャップ…」

 ナマエは無言で太郎の背を思い切り叩いた。そりゃあ31歳なんて14歳からしても22歳からしてもおばさんだろうけど。

「はーもう本当幸せ。安室さんに会えるなんてー」

「そんなに好きなんだ」

「うん。いや、赤井さんの方がかっこいいけどさ、何かこう…人間臭いとこが好き。それに名前がさ、思い入れがあるっていうか…」

「え?」

「あ、あーいや、これは恥ずかしすぎるからやめとこ。それよりナマエは会いたいキャラいないの?主人公組と同じ学校なんだろ?」

「何言ってんの、全力で回避してるよ。巻き込まれんのやだもん」

「もったいねー」

 他にもあーだこーだとキャラの話をしながら、あんまりにも楽しそうに太郎が笑うので、ナマエもつられて笑った。

「でも、深入りしすぎないようにね」

「はいはい」



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