原作クラッシャーの伏線

 きょろきょろと辺りを見回す。遠くから走ってきた目当ての人物に、バーボンはほっと息を吐いた。次の任務に向かう時間まであと数分。

「……スコッチ。遅いぞ」

「ごめんごめん。ちょっと妙なこと言うやつにつかまっててさ」

「妙なこと?」

「あー、いや、大したことじゃないから気にしなくていい」

 そう言ってスコッチが笑ったので、バーボンもそれ以上の詮索はしなかった。





 NOCの嫌疑がかけられた。と、その情報が入った時には。
 バーボンはスコッチがいるそのビルへ走り出していた。

(間に合え…間に合え!)

 階段を駆け上がっている途中、一発の銃声が響いた。胸の奥がすぅっと冷えた。
 非常階段を駆け上がり、その扉を開くと同時に、

 ――――ごうっ、

 爆音が響いて、視界が赤く染まった。誰かの腕がバーボンを抱えて、そのままもんどりうつように階下へ転がり落ちた。

「ラ、イ…!?」

「…君か。バーボン」

「スコッチは!まさか――――!」

 爆風にやられて煤けたライの顔に、何とも言えない表情が浮かんだ。すぐに鉄面皮に隠されてしまったその微かな兆しから、バーボンは最悪の想像を容易く思い浮かべた。

「裏切り者には制裁を、だろう?」

「さっきの銃声は!?」

「俺が撃った。証拠隠滅のためか、爆弾のスイッチを押されてしまったが、心臓は撃ち抜いた。裏切り者は無事に消したさ」

 ここでライに掴みかかってはいけない。それでは自分がスコッチの仲間だと―――NOCだと知らせるようなものだ。そう思いながらも、バーボンは、腕に力が籠るのを抑えられなかった。

「…遺体の…確認をしないなんて、あなたらしくもない」

 バーボンは絞り出すようにそれだけ言って、ふらりと立ち上がった。

 がれきの中から見つかった死体は、顔も分からないほど黒焦げになってはいたが、確かにスコッチのものだった。左胸に、綺麗に一発の銃弾が貫通した痕もあった。歯型や残った皮膚片のDNAも一致した。彼、だった。



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