明晰夢(コナンネタ)

タイトルをつけるとしたらペルセポネと四粒のザクロ。または普通に明晰夢。






 あ、これ夢だなって分かる時あるでしょ?
 明晰夢っていうんだっけ。とにかく、これ現実じゃないな、って分かる時があるでしょ。
 それが現実だったことは一度もない。少なくとも私は。
当然だ。夢だと思っていたのに現実でしたなんてことがあったら、精神の病を疑う。すぐしかるべき機関にかかって治療を開始すべきだ。

 うん、これは自分に語り掛ける思考だから、とりとめがないのは許してほしい。
 で、何でこんな思考をしているのかっていうと。





 身一つで歩いていた。途中で、ああこれは夢だな、と思ったけれど、特に気にせずに歩いていた。
 夢ってのはそういうものだから。特に意味もないし、何なら感情すらあまり湧かない。なぜか恐怖だけは覚めても残っているものだけど、少なくとも私は、夢で大した感情を抱いたことがない。ああ、もう少しでおいしいご馳走が食べられそうだったのに食べれなくて残念、みたいな感情なら抱いたことがあるけど。複雑な思考はできない。
「…危ないっ!」
 誰かの声が聞こえた。誰の?知らない。恐らく昼間に通り過ぎた人ごみの中の誰かの声のごちゃまぜだろう。顔もそうだろうな。
 で、真横に、バイクと車に轢かれそうな子どもがいたから、助けた。
 ら、なぜか気を失うということになった。ちなみに気を失った後は神さま視点(上から全てを眺めてるってやつ)で、運ばれる自分と、自分を運ぶ人たちを見ていた。

 そしてまた気付くと、ふわんと自分の体の中に意識が戻った。夢ってのはころころ視点が変わる。
「…ねえ、お姉さん」
 横に子どもがいた。助けた子どもとは別の。何だろう、子どもが出てくる夢なんて珍しい。
「なあに?」
「お名前聞いてもいーい?」
 可愛らしい子どもだ。どこかで見たことがあるような気もする。
「山田花子よ」
 最も偽名らしい(あるいは最も偽名らしくない)名前を名乗ると、子どもは明らかに眉を寄せた。しまった、夢だからもっとなんか突拍子もない名前でも名乗ればよかった。アンジェリーナ・ジョリーです、とか。でも夢だからって何でも自分の思い通りになるというわけじゃないのが歯がゆいところだ。
「今が何年何月か分かる?」
「××年×月×日」
 自分で言っているのに自分の言葉が聞き取れない。だが子どもはふぅん、と頷いた。
「住んでる場所は?」
「××県××市××」
「…仕事場は?」
「×××」
 ぼんやり、ぼんやり、全部ぼんやり。
「そう」
 子どもの質問は一旦途切れた、かに見えた。
「お姉さん、一体何者?」
「…?」
「ポケットに入ってた免許証を見せてもらったけど、記載されている住所は二十年前に火事で焼失して空き地になってる。その名前の戸籍も存在しない。それに…どうして鞄のひとつも持たずにあんなところにいたの?」
「君、大人っぽいね」
 子どもなのにすらすら話す様子に感嘆する。あれ?そういえば。
「ていうか大人なんだっけ。いや、未成年だし子どもか?」
「……………」
 子どもの視線がとても鋭くなった。こ、怖い。自分でも自分の台詞の意味なんて分かっていないんだけど。
「お姉さん、何を知ってるの?」
「どうして答えなきゃいけないの?」
 子どもの視線がもっと鋭くなった。だから怖いって。



 異世界に来てしまい、そこの食べ物を口にすると戻れなくなるというのはよくあるひとつのセオリー。
 ギリシア神話のペルセポネだって、ザクロを四粒食べてしまっただけで異世界に一年の三分の一行かなくなってはいけなくなってしまったじゃないか。あれ、六粒だったっけ?まあそれはどっちでもいい。



「…お姉さんが食べ物を食べようとしないのは、それが理由?」
 コナンは、少し考えた後でそう問うた。
「そうだよ。」
「でも、その水は飲んでるよね」
「これは元から私の鞄に入ってたものだし。」
「………人間、水がないと三日ももたないよ。その水、今日で飲み干しちゃうよね」
「そりゃ大変だなあ」
 二人は穏やかに会話をしていたのだが。彼女のあまりの呑気さに、コナンは思わず声を荒げた。
「大変だ、じゃねぇだろ!!」
 と、彼女は目をぱちくりとさせた。
 しばらく沈黙してから
「………びっくりした。」
 とだけ言った。
 もっと他に言うことがあるだろうが。
「あ、そうだ。そういえば聞こうと思ってたんだけど、ここの治療費ってさ」
「それはFB……警察の人が出してくれるから大丈夫ってさ。それより本当に入院しないの」
「うん、別に痛くないし。まあ一晩の宿って意味では泊まっていきたいくらいだけど…無理やり点滴とか入れられたくないし」
 痛くないと言っても、骨が折れているのだ。それなのに彼女は、傷口へ消毒液を掛けることすら嫌がった。
 埒が明かない。コナンは、同じ病院にいるはずのとある大人に助けを求めることにした。



「おや、ボウヤが助けを乞うなんて、珍しいこともあるもんだな」
「ごめんなさい。でも水無怜奈さんの方は大丈夫だって聞いたから。」
「それで、一体何が問題なんだ?」
 赤井も、水無怜奈がバイクでクラッシュした際に子どもを助けようと飛び出てきた一般人女性のことは耳にしている。だが、特に問題があるようには見えなかったのだが。
「うん、そのひとね、―――――何も食べようとしないんだ」

追記
(2016/10/15 17:51)
 
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