「悠里、ちょっと見てくれ!」

「え、あ、ちょっと待って!」



テレビをみていたら、俺たちがいつも演奏しているライブハウスの特集がしていた。

そしてほんの一瞬だが、俺たちが演奏している場面も映った。
それに驚いて悠里を呼んだのに、肝心の悠里はテストの添削のためこちらにはこない。



「ごめんごめん、どうしたの?」


やっとこちらに来たときには当然そのシーンから画面は切り替わっていて。


「いや、もういい。」


本当に少しだったが、それでも全国に流れるテレビに映った自分を見てもらいたかった。
そんな考え、子供っぽいだなんて自分でもわかっているけど。



「テレビ?なにか映ってたの?」

「…ヴィスコンティがな。」

「えぇぇぇぇっ!!!」



ふてぶてしく放った俺の言葉に目を大きく見開いて驚く悠里。


「それって瞬くんも映ったんだよね!」

「一瞬だけ、だがな。」

「え〜…それは、ショック…」



もうちょっと早く来ればよかった!だなんてしょんぼりしだす悠里を横目で見て愛しさは募るが、素直じゃない俺はまた余計なことを口走る。



「俺が呼んだときに来ないからだな。」

「うぅ…、ごめんなさい。」



その冷たい言葉に落ち込む悠里を抱き締めてやりたいなんて思うのに、やはり俺は素直になれない。


「最近の悠里は人の話を聞かないことが多々あるぞ。」

「…た、たしかに……」

「一回呼んだだけでは反応しないし。」



それは、本当のことだ。

最近の悠里は、疲れているのか、一回の呼び掛けでは反応や返事がないときが多い。
もともとそういうところが多い人だったがここ最近はそれがすごい。



「…瞬くん、ごめんね。」

「…っ、」



確かにそのことについて何にも思わなかったと言えばウソになる。

でも、俺は貴女に謝ってほしいわけでもそんな顔をさせたいわけでもないんだ。


「私も、テレビに映った瞬くん見たかったよ。」



ただ、俺をもっと見てほしいだけで。



「……俺も、言い過ぎた。」

「そんなことないよ。私の悪いとこ、ちゃんと教えてくれてありがとう。」



あぁ、もう。
俺はいつも貴女の言葉で救われる。




「ねぇ、瞬くん……。」

「?」


少し遠慮がちに声をかけられてそっちのほうをみれば、


「こんな私のこと、…嫌いになっちゃった?」


「そ!それは断じてあるわけがない!」


予想外のことを言い出して慌てるのは俺の方。

俺が貴女を嫌いになるだなんてあるはずがないのに。



「本当?」

「あぁ。そんなことでウソついてどうする。」

「…そっか、よかった…。」


安心した笑顔に戻った悠里に愛しさは限界になり、抱き締める。


「嫌いだなんて冗談じゃない。…愛している、悠里。」

「うん、私も。」



反応がすぐなくったって、俺は貴女を何度だって呼んでやる。

俺だって悠里のすべてに何度も惚れてるんだしな。

だから、貴女に対してなら回数なんて気にならない。

貴女のためなら何度でも呼び掛けて、何度でも愛してやる。





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