『いいかい?今日でまた一つ年を重ねたんだから少しは成長するんだよ。君はもう大人なんだから。』





家をでるときに鳳様からそりゃもうきつーく言われ続けた言葉が反芻する。





「…あの、銀児さん?」



可愛らしい声にハッとすれば、悠里ちゃんが不思議そうにこてんと首を傾げていた。




「もしかしてお腹痛いですか?」

「お腹?」

「…私あんまり料理得意じゃないのに銀児さん残さず食べてくれたから…」



さっきまで、悠里ちゃんに誕生日を祝われながら手作りの料理を食べていた。


確かに彼女の作る料理は…完璧とは言えないが、愛しい愛しい彼女が作るものに不満なんてあるわけない。



「ちーがうよん子猫ちゃん。ちょっと考えごとしてただーけ。」



考えごと?とまたしても首を傾げる姿はもう犯罪級ってくらいに可愛くてすぐにでも抱き締めたくなる。




でも、





『大人なんだから。』



あの鳳様の言葉が耳元できこえたような気がして、うっと腕が止まった。




『いきなりがっつくなんて、やめとくんだよ?』





わかっています鳳様…!葛城銀児は大人です!見ていてください!




「…そ、それよりも子猫ちゃん?」

「はい?」

「ちょ、ちょっと近くない?」



そう。さっきから、近い。
悠里ちゃんと俺の距離が。


ソファでいい間隔をとって座っていたはずがいつのまにか隙間がないくらい距離が縮まっている。



「…い、いや、ですか?」




くぅうう!!!!
なんて小悪魔ちゃんなんだ!
そんな上目遣いをして!





すぐにでも抱き締めたい衝動を必死に押さえてニコリと微笑みを返す。



「いや、俺もこの距離が丁度いいかな。」




フッ、今の余裕の笑みは大人の男だ。





「……」




眉を寄せる悠里ちゃんの顔をあんまり見ないようにして必死に理性を保つ。





(がっつかねぇぞ、俺は大人だ)




「なんか…今日変ですね、銀児さん」

「そっ?そんなことないよ〜」




アハハと笑いながら答えてみるも情けないことに内心は心臓バクバク。

気付かれれば大人の余裕どころじゃなくなっちまう!







「…じゃあ変なのは私かもしれません」

「へ?」





悠里ちゃんの言葉を理解する前に暗くなる視界、と唇に触れた柔らかい感触。






「ゆっゆゆゆゆっ!?」

「…ごめんなさい、」



なにが起こったかわからない俺に彼女は一言謝って、でも、と続ける。





「私、銀児さんに触れたいんです」



小さな声でつぶやいた後にもう一度触れるだけのキス。



でも残念ながらもう触れるだけでは足りないから。




心の中で鳳様に謝った。











行きはネバーランド


君が望むのなら大人になんてなれなくたっていい。





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