「えっ!二階堂先生、明日出張なんですか?」
「えぇ。この前話したはずでしたが。」
「そ…そうでしたっけ…。」
帰り道。隣を歩く相手は、いつもと変わらず冷静な声。
確かそんなことを言っていたような…言ってなかったような…。
でもよりによって明日だなんて。
「…悠里?聞いてますか?」
「え?」
「ふぅ、まったく。」
「…ご、ごめんなさい。」
ため息をついて呆れた顔。
そんな顔もやっぱり好きで。
だから、貴方の誕生日は一緒に過ごして祝いたかった。
「今が何時か、わかってます?」
「えっ、今ですか?」
「はい。」
時計を見ればもう23時を十分に越えている時間。
新学期が始まって、色々な行事が重なっている今の時期はとても忙しい。
気付けばこんな時間まで学校で仕事をしていた。
「あ、あと3分!」
「一番に貴女から聞きたい。」
「…に、二階堂先生、」
普段あまりそういう言葉を言わない彼が、いくら誰も居ないからってそんなことを言うなんて。
急に恥ずかしくなる。
「その呼び方は好ましくありません。」
「衝…さん。」
手に握っていたケータイを見れば時間は23:59
「出張いつ帰ってきますか?」
「それは、わかりません。」
「待ってます。」
「それなら、早く帰ってきます。」
その静かな雰囲気のやり取りになぜだか泣きそうになる。
――0:00
「…お誕生日、おめでとうございます。衝さん、大好きで、っ!」
言葉の途中で手を引かれ、気が付けば衝さんの腕のなか。
「しょっ!」
「すいません、少しだけ。」
こんなに近くで囁かれている声なのに、心臓がうるさくてよく聞こえない。
「…衝さん、プレゼント、何が欲しいですか?」
「プレゼント?」
「はい、本当は一緒に選ぼうと思ってたんです。」
この恥ずかしさから逃れようと思って少し体をよじってみても腕の力は弱まらなくて。
「それでは、…悠里を、ください。」
「え?」
な、なに言ってるんですか!
その言葉は口から出ることはなく、柔らかい触感でふさがれた。
ちゅ、と触れるだけのキス。
まさかあの衝さんが外でこんなことをするなんて。
誕生日プレゼントが私ってこういうことなの?
思うことはいっぱいあったけど、至近距離で彼の目を見たらもうなんにも考えられなくて。
「…衝さん、」
「はい。」
まるで熱に浮かされたように、顔が熱くて鼓動が早い。
「…一回だけ、で、いいですか?」
「…っ。まったく…貴女って人は。」
そして、またどちらからともなく唇を重ねる。
夜中に外でこんなこと。きっと私たち2人とも、どうかしてる。
でも、この瞬間は特別だから。
今だけは、この熱に酔わせて
(酔ったのは私?それとも。)
← | →.
.