「清春くん、」
「ン、あとでナ。」
「…、わかった…。」
また、だ。
清春くんがおかしい。
そうは言っても、おかしいのは私に対する態度だけ。
いつもは恥ずかしくなるくらい甘い言葉を囁いて、暑苦しいくらいベタベタしてきて、嫌になるくらい悪戯を仕掛けてくるくせに。
それなのに最近の清春くんは悪戯どころか私に触れてくることさえない。
今みたいに話し掛けてもいつも決まって、あとでナ。ばかり。
(…信じたくない、けど…)
認めたくないけどずっと考えてた。清春くんが私を好きじゃなくなること。二人の時間が終わること。
そうじゃない、って思い直そうとしたってもう不安でいっぱいなこの心は黒いもので覆われるばかり。
(あ、ダメ、泣きそう、)
「…私、買い物行ってくるね、」
「オー…、っ!??」
泣いてしまう前に清春くんの前から居なくなろうと思った、のに。
「テメ、なに泣いてやがる!!」
「っ、」
どうして気付いちゃうの。
さっきまでは私になんか目もくれなかったくせに。なんでこんなときに限って。
「…んでもな、いっ…」
「ンなわけねェダロ!」
「ほん…っと、に…!」
「言え。今すぐ言え。」
強めに言われて涙がとまらない。
「ど…っ、して?」
「ン?」
「どぉしてっ、じぶんは…いっつもあとでって…言う、くせにっ…!」
嗚咽混じりにそれだけ言えば、息を呑む音が聞こえた。
動揺、した?心当たりがあるの?
やっぱり、勘違いじゃなかった?
「…も、いい。…わか、れる」
本当の気持ちなんて全然入ってない言葉。頭ではわかってる。この言葉を口にしたらダメだなんて。
本当は嫌だよ、心では叫んでるのに。
「ンなこと許さねェ。」
低い声聞こえたと同時に強い力で締め付けられる体
「…え、」
それが清春くんに抱き締められているってことに気付くのに時間はいらなかった。
「き、よは、」
「お、れがっ、オマエを離すわけねぇダロ!っざけんナ!」
背中に回る腕の力は強くなるばかりで、耳元で聞こえる声は震えてる。
「…だ、って…」
「だってじゃねェ。なぁ、悠里、俺サマから離れンじゃねぇよ。そばに、居ろよ。」
「…っ!」
それは懇願するように切ない声で。
目に溜まっていた涙を止めるすべもなく私は何度も頷いた。
「我慢?!」
「アァ。ゴローのやつがよ、意味わかんねーこと言ってきやがって!」
『キヨももう大人なんだし、過度な愛情表現は控えたほうがイイヨ〜?センセも困ってるでしょ!』
「た、たしかに…」
「確かにってナンダヨ!」
「でもっ!過度なものは避けるとしても最近の清春くんは目すら合わせてくれなかった!」
過度な愛情表現を控えるっていうのには賛成だけど、愛情が見えなくなるまで控えるっていうのは納得できない。
「…あー、ダァカラ、」
「…?」
少し不安で、頭をボリボリとかく清春くんを見上げると、ため息を吐く清春くん。
「…ンーな顔すんなっつーの。」
「きゃっ!」
ぐいっとひっぱられて再び腕の中。
「お前見てっと、どーしても触れたくなんだよ!俺サマは!」
「えぇ?」
「…ゴローとの約束はナシだ。」
涙が流れたあとが残る頬を優しく親指で触れられた。
そしてそこに軽く口付けられる。
「お前に触れねェなンてありえねェダロ。」
それがくすぐったくて身をよじれば、キシシッと笑う声。
「それにィ、悠里チャンが予想以上に寂しがるからナ〜?」
そんな意地悪な言葉も久しぶりで反論も忘れてしまう。
「…もう、あんな思いは…嫌なんだからね、バカ」
「っ」
いろんな感情を隠しきれず、清春くんの服をぎゅっと掴んで胸に顔をうずめると、頭上から再びため息が聞こえてきた。
「…ったーく、…ほンっと勘弁しろっつーの」
(キヨってば結局3日も続かなかったね〜!センセも案外さみしがりやだったし〜…)
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