「えーっと、この人が田中選手で、」
世はワールドカップという祭りで盛り上がっている期間。もちろん自分も例外でなく恋人を膝のうえに乗せてテレビをみていた。
そんなとき、いきなり悠里が日本代表の選手の名前を次々と口にしだした。
「いきなりどうしたんだ?」
不思議そうに問えば、振り向く悠里はニコッと笑って「覚えたの。」と答える。
「日本だけじゃなくて、外国選手も少しは覚えたわよ?」
もちろん一だって、自分がめざしている舞台に立っている選手たちの名前くらい覚えている。
でもどうして悠里も、選手の名前なんて覚えているのだろうか。
「なぁ、悠里。」
「あ、名前違ってた?」
「ん?そうじゃねーよ。けどさ、いきなり名前なんか覚えはじめてどうしたんだよ。」
やさしく言って悠里を覗き込んでみれば、その顔は明らかに焦った顔。
「っと、その、大した理由なんて全然なくって!あのっ、ただ、」
「ただ?」
その言葉が本当の理由なんて指してないことはバレバレでその次の言葉はウソなんだろうなってわかったけど、それはあとで問い詰めるとして今は焦るかわいい悠里を見つめるため先を促す。
「もっと詳しく知れば、…一くんともっとワールドカップ一緒に楽しめる…かなぁって…」
これが本当の理由だったらいいのに。って思うくらい、とっさのウソだって思えねぇ嬉しい理由。
でも俺が聞きたいのは、悠里が隠した本当の理由。
「嬉しいぜ、悠里。」
そう言ってやれば、安堵した顔。
「で、本当の理由は?」
「へっ!?」
思ってもみない俺の発言に驚く悠里。
「悠里はウソつくの下手すぎなんだよ。」
ビクッと揺れた体に手を回して肩におでこをのっける。
「…俺は、悠里の口から本当の理由聞きてぇんだけど。」
「…は、はじめくん…」
「な?」
耳元でささやけば声を小さくして、笑わない?と聞いてくる悠里。
「笑わねぇよ。だから。」
「……この先、…この人たちが、はじめくんのち、チームメイトになったり、ライバルになったりしたとき…名前覚えてないと申し訳ないかなって…そう、思って……ってはじめくん!?笑わないって言ったじゃない!!」
それはあまりにも予想外でかわいい告白で、笑わないと約束したにも関わらず俺は途中から笑いがとまらない。というより、顔の緩みがとまらない。
「ククッ、ごめんごめん。だって悠里がそんなかわいいこと言うからよー。」
「かっ、かわいくなんか…」
「かわいいよ。そんな心配してくれてサンキュ。」
あの不思議な行動は他ならない自分のため。まだワールドカップなんて遠いゴールなのに、そんなことを心配してくれる悠里。
「でもさ、俺がワールドカップ出るときに今のメンバーがそのままっていうわけじゃねぇかもしれねーよ?」
「あっ、そっか…」
今気付いたらしい悠里は心なしか残念な顔をする。
あーもう、どれだけかわいいんだアンタは。
「それでも悠里の気持ちは嬉しいぜ。」
「あっ、でも!はじめくんと一緒にもっとワールドカップを楽しみたいって言ったのもウソじゃないから!」
今度は俺が驚く番。
本当、この人はどこまでも俺を幸せにしてくれる。出会ったときから今までずっと。
「うん、サンキュ悠里。」
このサッカーの試合がおわったら、どうやってこの幸せを貴女に返そうか?
(でもあんま男の名前ばっか口に出すのは禁止な。)(っ!!)
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